手首の腱鞘炎(けんしょうえん)は出産前後や更年期の女性に多く、男性の約3~5倍とも言われています。ホルモンの影響もありますが、産後の母親では授乳や育児に伴う過剰な動作や使用が主な原因です。育児期の手首痛は国内外を問わず昔から知られていますが、積極的にケアを受ける機会がありませんでした。産後1カ月以降に症状が急増するため医療者が気づきにくいこと、母親は子ども第一で自分のことを後回しにすること、痛みは我慢するものという考えなどが影響していると思われます。

 佐賀大学医学部看護学科母性看護・助産学領域では、育児期の母親を対象に腱鞘炎の研究を行ってきました。そのなかで育児中に手首痛を訴える人が産後2か月で56.8%、産後6カ月でも34.6%あることが明らかになりました。大部分の母親は腱鞘炎の情報不足を感じていました。手首痛は受診した方がよいのか、経過をみてよいのかもわかりません。育児が主要な原因なので休むこともできません。治療のために母乳を止めなければならないなどの誤った認識から受診を避け、半年から1年以上痛みを抱えている方もいます。

 そのような母親の悩みを解決するために、佐賀大学・名古屋大学・大阪大学との共同でスマホやネットで視聴できる教材を開発しました(4月から一般公開)。内容は、佐賀県の調査結果を基にした産後の手や手首の問題に関する情報、セルフチェックの仕方、質問票を使った受診の目安、早期受診と治療の勧め、セルフケアの仕方、ストレッチや抱っこの仕方など育児法の工夫による予防などです。さらに佐賀県などのご協力を得て、保健師・助産師・看護師・母子保健推進委員などを対象に母親への啓発やアドバイスを行うための講座を始めました。

 産後腱鞘炎の予防は母親と赤ちゃんに優しい育児法につながります。佐賀県での取り組みが全国に広がり、育児を楽しむ人が増えることを期待します。

 教材のアクセス先はhttps://mercury.med.saga-u.ac.jp/4mama/

(佐賀大学教育研究院医学域医学系=母性看護・助産学領域=教授 佐藤珠美)

このエントリーをはてなブックマークに追加