利用者のつめを切るナインココトゥンさん。女性はリラックスして会話を楽しんでいた=多久市の認知症対応型共同生活介護グループホーム悠々

 「痛くなかですか」「痛くなかよ、そのまま切ってくんしゃい」。2月下旬、多久市の高齢者グループホーム「悠々」。ミャンマーから介護留学で来日しているナインココトゥンさん(31)が、90代女性のつめを切っていた。佐賀弁での会話は笑顔が絶えない。

 18人の高齢者が共同生活する。パートを含む介護職員は15人。認知症対応施設で「職員は多ければ多いほどいい」(吉次順也主任)。ナインココトゥンさんは、電子カルテにも漢字を含む日本語で入力し、夜勤も担当。「欠かせない戦力」(同)となっている。

 昨年4月、ミャンマーから11人が「介護留学」で来県した。西九州大短期大学部と老健施設が連携した取り組みで、学びながら介護施設でアルバイトし経験を積む。2年間の学費164万円の貸付金があり、介護福祉士として県内施設で5年働けば返済不要になる。

 人材不足に対応したい日本の介護施設と、介護業務の経験を積みたいミャンマー人双方のニーズをくみ取った全国的にも珍しい仕組み。ナインココトゥンさんはSNSのフェイスブックで制度を知った。元公務員で、日本語能力を生かしたいという思いもあった。「留学はお金がかかる。この制度がなかったら、来日できなかった」。妻と相談し、単身での留学を決めた。

 「ビルマから来ました」。留学生のメイルインウーさん(30)は、アルバイトしている佐賀市の老健施設しょうぶ苑で、こう自己紹介する。高齢の利用者には「ミャンマー」より、「ビルマ」と言ったほうが伝わりやすい。出身地を聞いた90代の女性は涙を流し始めた。「私の兄はビルマで戦死しました」。しばらく戦争の話が続いた。相づちを打ちながら静かに聞いた。

 施設の平均要介護度は3・5。一人で身の回りのことや排せつができない利用者は多い。介護長の吉村理英さん(47)は「急な呼び出しがあっても、メイさんに任せられる。1人多いだけで全然違う」。介護業界では求人を出しても採用につながらない状況が続き、慢性的な人手不足感がある。メイさんは嬉野市の朋寿苑でも月2回ほど働く。

 西九州大短期大学部や介護施設などが連携した「介護留学」制度で、19年度はさらに44人が来県。別の枠組で、介護分野での技能実習生の来県も進む。

 県内の介護指定事業所は3月1日時点で1637カ所。横ばいが続く。ここ数年は、人手不足などで毎年50~60カ所が休止する。ある施設関係者は「外国人を雇ってあげるという姿勢ではよそに取られる。お願いしてでも来てほしいというのが実情」と訴える。

 「悠々」を運営する医療法人社団「高仁会」は、カンボジアの技能実習生2人を6月に受け入れる。加藤昌信事務長は、ナインココトゥンさんを見ながら言う。「昔の日本人のようなハングリーさや勤勉さを感じる」。県内の事業者が続々と外国人材受け入れの門戸を拡大している。

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 少子高齢社会の進展で、介護現場は慢性的な人手不足に陥っている。外国人材の活用や介護ロボットの導入、職員の処遇など様変わりする佐賀県内の介護現場の現状と課題を探る。

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