サイモン&ガーファンクルに「早く家へ帰りたい」というヒット曲がある。この曲を題名にした高階杞一さんの詩は、3歳のわが子を病気で亡くした実体験に基づいている◆弔問客が帰って自室に入ると、空のCDケースが床に落ちていた。まだ字も読めなかった子が、デッキをいじって遊んでいて、盤を入れ替えたようだ。スイッチを入れると、サイモンの歌声が切々と「早く家へ帰りたい」と繰り返す。それが〈最後のメッセージ〉に思えた◆〈死の淵からこの家(うち)へ早く帰りたいという意味なのか/天国の安らげる場所へ早く帰りたいという意味なのか〉。そして詩人も〈早く家へ帰りたい〉とつづる。〈あの日よりもっと前までさかのぼって/もう一度/扉をあけるところから/やりなおしたい〉◆県内の私立中学の男子生徒が自殺した。ポケットから、いじめの被害を記した遺書が見つかった。終業式の翌日、帰省の途中に飛び降りたという。あとほんの少し思いとどまって、自宅の扉を開けてくれたなら、わが子の胸を満たした悩みや苦しみに、気付いてあげられたろうにと、親なら誰しも思う。こんなことなら違う進路もあったはずなのにと、悔やみきれない思いにとらわれるのもまた親心である。遺族の無念は察するに余りある◆〈早く家へ帰りたい〉。きっとこの子もそうだったろう。(桑)

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