日産自動車の前会長カルロス・ゴーン被告による会社資金流用疑惑などを捜査していた東京地検特捜部は4回目の逮捕に踏み切った。前会長は昨年11月の逮捕から108日間にわたり身柄を拘束された。先月6日に保釈され、今月11日には記者会見も予定していた。特捜事件で、いったん保釈された後に再び逮捕されるのは異例のことだ。

 今回の逮捕容疑は、2015~18年にアラブ首長国連邦の日産子会社からオマーンの代理店に支出させた資金の一部を自分が実質的に保有する預金口座に送金させ、日産に5億円余の損害を与えた―とされる会社法の特別背任容疑。一部は前会長の妻が代表の会社に流れ、クルーザー購入に充てられた疑いがある。

 前会長は既に、有価証券報告書に自らの役員報酬を過少に記載したという金融商品取引法違反の罪と、私的な投資の評価損を日産に付け替えるなどしたとの特別背任罪で起訴されている。ただ過少記載や付け替えで日産に実損は生じておらず、特別背任については10年も前の話で、立証の難しさも指摘されている。

 そうした中、より悪質で背任性の高い事案の立件で「会社の私物化」を際立たせる狙いがあるとみられる。しかし「人質司法」の批判が再燃するのは避けられまい。「口封じ」という見方も広がりつつある。異例の判断を巡って、検察は説明を尽くす必要があろう。

 ゴーン前会長は最初の逮捕以降、一貫して「無実」を主張。3日に11日の会見予定をツイッターに投稿した。その翌朝の逮捕だった。広報担当者を通じ「常軌を逸しており、恣意(しい)的だ」とする声明を発表。取り調べで新たな容疑を否認しているという。弁護団は「何のために身柄を拘束するのか」と反発している。

 流用された資金は「社長号」と名付けられ、前会長の家族が使っていたクルーザーの購入代金の一部になったほか、前会長の息子が最高経営責任者(CEO)を務める米国の投資会社側に渡った疑いもあるとされる。

 検察は会社私物化をより鮮明にすることで有罪を確実にできるとみたのだろう。起訴済みの役員報酬の過少記載に「形式犯」の指摘がつきまとい、特別背任についても弁護団は争う余地が十分にあるとみて徹底抗戦の構えを見せているからだ。

 前会長は08年のリーマン・ショックによる私的投資の評価損を日産に付け替えたとされる。検察は付け替えた時点で特別背任が成立するとしているが、損失の負担義務は最終的に前会長側に戻っており、実際に損失が生じたと言えるか立証は難しいとの見方もある。

 さらに負担義務を戻す際に信用保証で協力したサウジアラビア人の知人側に日産子会社から12億円余を振り込ませたとされる。謝礼か業務委託料かは争いのあるところだろう。また特別背任立件のハードルはもともと高いとされ、過去に検察が起訴しても無罪になった例は複数ある。この件は海外の資金の流れも絡むことから、立証は困難を伴うといわれている。

 なぜ追起訴ではなく、逮捕だったのか。住居の出入り口に監視カメラを設置するなど厳しい条件付きで保釈されたとはいえ、検察は事件の関係者が多く、証拠隠滅の恐れがあると判断したのかもしれない。それならそれで国内外の理解を求める努力も求められよう。(共同通信・堤秀司)

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