新元号の考案者ではないかと、一躍「時の人」になった万葉集研究の第一人者、中西進さんは揮(き)毫(ごう)を求められると、よく「雁木の間に出入す」と書くそうだ。「令和」の典拠とされる梅花の宴を太宰府で開いた歌人、大伴旅人の人生観を表した言葉である◆講演で江戸時代の藩政改革を例に、「正直のすすめ」を説いたところ、小学生の子どもを持つ父親から質問が出た。「正直がいいことは分かるが、政治の世界ではなかなか通用しない。子どもにどう教えればいいのか」。中西さんは「雁木―」の由来となった逸話を引いた◆古代中国の思想家、荘子が旅の途中、木こりが木を切り倒していた。「立派な木だから、いい材料になる」。しばらく行くと、親切な村人がごちそうしてくれた。「この雁はよく鳴かないので殺しました」。役に立つから切られるものと、役に立たないから殺されるもの。荘子いわく、「役に立つとか立たないとか考えず生きるのが一番いい」(『日本人の忘れもの3』)◆下関と北九州を結ぶ道路の事業化調査を巡り、国交副大臣が「(地元の)首相や副総理に忖(そん)度(たく)した」と述べた。発言はすぐ撤回されたが、政治の世界に珍しい「正直」な方なのか、「お役に立ちたい」とつい口が滑ったのか。「われを忘れた」とご当人。人生訓を中西先生に一筆お願いしたらいかがだろう。(桑)

このエントリーをはてなブックマークに追加