大河ドラマ「いだてん」にも登場する落語家古今亭志ん生は、16回も芸名を変えている。ある日、楽屋へ借金取りが訪ねてきた。「金原亭馬太郎さんはいますか?」「馬太郎さんは、もういません」。すでに吉原朝馬に改めた後だったから、決してウソではないのだが…(山川静夫『名手名言』)◆名前の思い出は本紙「手鏡」にもあった。唐津市厳木町の久保美津枝さんに最初、父親が考えたのは「米子」。戦争末期の昭和20年のことである。立派に実りますように、いっぱい食べられますように。食糧難の時代、わが子に託す切実な願いだったろう◆しかし、祖父が首を縦に振らなかった。やがて戦後復興とともに、世の願いは食ばかりではなくなっていく。「田舎のおじいさんの方が、よほど時代を先取りしていたようで」と久保さん◆新元号は「令和」に決まった。「厳しい寒さの後、春の訪れを告げる美しい梅のように、それぞれの花を咲かせる国に」と、安倍首相は会見で語った。初めて日本の古典から引いた2文字が、未来を先取りする名付けであればいい◆新時代への祝祭ムードが高まる中で、去り行く「平成」にこめられた願いにも静かに思いを寄せたい。かなったこと、かなわなかったこと。若き日の「昭和の名人」よろしく、過去を都合よく「ご破算」にしないためにも。(桑)

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