これでは不信は解消しない。

 2年近くにわたりトランプ米大統領の疑惑を調べていたモラー特別検察官の捜査が終結した。

 2016年大統領選で、トランプ陣営がロシアと連携してクリントン候補をおとしめたという共謀は認定しなかった。偽ニュース拡散やクリントン陣営へのハッキングなどロシアの干渉を認め多数のロシア人を起訴したものの、共謀の事実は立証できなかった。

 問題はもう一つの捜査対象である司法妨害だ。

 トランプ大統領はロシア疑惑を捜査していたコミー連邦捜査局(FBI)長官を17年5月に突然解任し、その後も捜査を「魔女狩り」と呼ぶなどさまざまな圧力をかけた。これらの行為が司法妨害の罪に当たるかどうかについて、特別検察官は罪を犯したと結論付けもしないが、疑いが晴れず無罪と認めなかった。

 この不明確な結論の原因は、大統領が特別検察官の面談での聴取を拒否したためだ。直接本人に犯意などを聞く機会が得られなかった。自らもFBI長官を長く務めたモラー氏からすれば、政権を捜査するFBI長官の解任など、認められないとの思いだろう。

 だが、特別検察官の捜査を監督するバー司法長官は報告を受けてからわずか2日後に議会宛て書簡で「大統領の司法妨害は立証できない」と決めつけた。大統領は政府職員を任命・罷免する一般的な権限を持つとの判断からとみられる。

 バー長官は特別検察官の捜査が大詰めを迎えた今年2月に、トランプ大統領の指名を受けて就任した。就任前からFBI長官の解任を司法妨害として捜査するのは「致命的な思い違い」と語っており、大統領の最後のとりでとされてきた。

 報告書は機密内容が含まれ、全文は公表できないとされ、明らかになったのは特別検察官の捜査報告書をまとめた司法長官の4ページの議会宛て書簡だけだ。これでは捜査の全容は分からない。

 世論調査によると、87%の国民が報告書の全文公表を求めている。1990年代のクリントン大統領の不倫疑惑では特別検察官の詳細な報告書がすぐにインターネットで公表された。今回のような不透明なままの捜査終結では政治の混乱は収まらない。米国民や世界がトランプ大統領を客観的に判断するために、個人のプライバシーなどを除いた報告書全文が早急に公表されるべきだ。

 トランプ大統領は捜査の終結で「完全な無罪を得た」と主張しているが、特別検察官が疑いは晴れないと指摘しているのと矛盾する。

 大統領はこれとは別に、不動産ビジネスに関連した違法行為や脱税、選挙資金法違反などさまざまな疑惑で連邦検事から捜査対象となっている。こうした状況を考えれば、もっと謙虚であるべきなのだが、依然戦闘態勢で野党民主党との和解など考えていないようだ。

 一方の民主党は、主導権を握る下院を舞台にさまざまな疑惑の調査を行う方針で、バー長官の議会召喚などを目指している。20年大統領選に向けて対立は激化するばかりだ。

 トランプ大統領は経済運営や中国、北朝鮮、中東、ロシアなど外交で課題を抱えるが、国内の分断は大統領の国際的な指導力を一層弱めている。捜査報告書の不公表は米国の分断を深めるだけだ。(共同通信・杉田弘毅)

このエントリーをはてなブックマークに追加