聖火トーチのデザインに込めた思いを語る吉岡徳仁さん=東京港区の虎ノ門ヒルズ

 最初に出来上がった不格好な東京五輪聖火トーチの試作品を手に取ったデザイナーの吉岡徳仁さんの印象は「すごく重い」。アルミニウムの厚さを2ミリまで圧縮したが、不十分だった。東日本大震災の被災地で発想を得た桜のデザインと、持ちやすさを兼ね備えた作品の追求は地道な作業の連続だった。

 2015年秋、福島県南相馬市。被災地支援のため訪れた小学校の2年生と、季節外れだったが校庭にある桜が咲いている場面をイメージして絵を描いた。さまざまな事情を抱えているであろう子どもたちの表現に「なんて力強い絵なんだろう」と心を打たれた。「被災地の方々が主役になるものができたら」。桜がモチーフに定まった。

 目指したのは、溶接やビス留めによる接ぎ目のない優美な曲線のトーチ。過去の五輪では例がないといい、美しさと「0・1グラム単位まで」(吉岡さん)軽量化にこだわった。新幹線車両にも使われる「押出成形」という高度な金属加工の技術に注目した。

 請け負ってくれる業者を手当たり次第に探したが、当初は門前払いばかり。ただ、被災地で浮かんだ桜のデザインは「これしか駄目」と譲れなかった。「五輪とは日本の技術を見せる場でもある」と交渉を続け、情熱に共鳴してくれる業者にたどり着いた。

 試行錯誤を繰り返し、厚さは1・1ミリ。軽くて美しく、自身の思いも体現した作品が完成した。吉岡さんは「デザインによって何かを伝えられたら、と思ってやってきた」と満足げに語った。【共同通信】

■吉岡さん、現代アート活躍幅広く

 2020年東京五輪・パラリンピックでの五輪聖火リレーのトーチをデザインした吉岡徳仁さんは、日本を代表するデザイナーであり、アーティストでもある。建築やデザイン、現代美術などの分野を横断しながら活躍の場を広げてきた。

 1967年佐賀市生まれ。デザイナーの倉俣史朗さんや三宅一生さんの下で学び、2000年に独立。素材にこだわった椅子など、多くの作品がニューヨーク近代美術館(MoMA)をはじめ世界の有名な美術館にコレクションされている。企業とのコラボレーション作品も多い。自著「みえないかたち」では、デザインとは単に物の形を考えるのではなく、退化したように思われる「人間の感覚」を呼び覚ますことが求められる、と記した。

 そのデザインは、素材の特徴を生かして表現され、飽きのこないシンプルさが特徴だ。代表作の一つである、ガラスを使ったベンチは水の塊のようにも見え、オルセー美術館(パリ)が収蔵。15年には、吉岡さんがデザインしたガラスの茶室が、青蓮院門跡(京都市)の境内に設置された。茶室は昨年11月から今年2月11日まで佐賀市の佐賀県立美術館でも展示された。4月17日からは国立新美術館(東京)の屋外で、その茶室が展示される。【共同通信】

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