友人たちはその人のことを〈あっちゃん〉と呼んだ。有田町の深川製磁に勤務した造形デザイナー深川篤さん。2015年に57歳の若さで世を去った。彼の作品を集めた回顧展が県立九州陶磁文化館で開かれている(31日まで)◆同級生や創作仲間がその才能を惜しみ、深川さんのものづくりの世界を伝えようと企画した。会場には目のぱっちりした鳥を描いた壺(つぼ)、おっとり見える象や馬のオブジェ、金銀を鮮やかに配した大皿など柔らかい発想と色使いの作品が並ぶ◆ともに日大芸術学部に進み、6畳一間の部屋で生活した親友のデザイナー朝重利文さん(61)はこんなエピソードを話してくれた。「中学の時、おいどんは野口五郎の歌ば聞きよったけど、あっちゃんはフランク・シナトラとかジャズやった」。ジャズに通じる何ものにもとらわれない自由さ。それが彼の作品に息づいている◆一方で、深川さんは古伊万里や柿右衛門様式など有田の焼き物への驚くほどの知識としっかりしたろくろの技術があった。「有田の伝統を理解し、それを極めた上で自分の表現を追求した」と朝重さんは言う◆「友達になろうよ」「さあ帰ろう」。作品のタイトルにも心が温まる。伝統と自由さとぬくもり。〈あっちゃん〉のものづくりへの情熱は、〈おいどん〉たち仲間への励ましにもなっている。(丸)

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