患者さんの一番困っている症状を、「主訴」と呼びます。医師は、それを医学用語に置き換え鑑別すべき病気を考えていきます。

 「おなかが痛い」と言われたら「腹痛」をきたす疾患を思い浮かべます。では「胃が痛い」と言われたらどうでしょうか。患者さんが言われる「胃」は、医学的な「胃」と同じでないかもしれませんので、「腹痛」と考えて胃以外の原因も見落とさないようにします。

 主訴から病気を考える場合、役に立つのは解剖の知識です。簡単に言うと、症状のある場所にどんな臓器があるかを考える、ということです。一般の方もある程度知識があるので、頭が痛ければ脳が、胸が痛ければ心臓が心配になるわけです。この考え方は、あながち間違いではありません。ただ意外と内臓は痛みに鈍感なのです。

 解剖を考える上で、私はよくCT画像の輪切りの写真を見せて説明しますが、通常どの部位も、外側から皮膚や筋肉があります。身体の内奥ではなく、外側にある臓器は痛みに敏感です。危険から身を守る上で必要だったのだと想像します。腹部であれば、皮膚、脂肪、筋肉があり、それから内臓があります。胸部であれば、皮膚や筋肉だけでなく、骨(肋骨)が内臓を守ってくれています。胸が痛いと言われる人には、人さし指で痛い場所を示してもらいます。指し示すことができる程度の狭い範囲の胸痛は、外側の痛みの可能性が高く、心臓や肺が原因であることは否定的です。おなかが痛いと言われる人には、わざと腹筋を緊張させてもらい痛い場所を押さえます。内臓の痛みなら腹筋のおかげで圧痛(押さえた時の痛み)が軽減しますが、筋肉の痛みであれば、逆に強くなります。

 皮膚に関しては、視診(見る診察)で分かりますが、帯状疱疹(帯状ヘルペス)は残念ながら、皮膚に異常がない時点で診断するのは困難です。虫に刺されたような、ピリピリしたような痛みであれば、これから皮膚に異常が出るかもしれないので、患者さんご自身にも注意して観察してもらい、ぶつぶつが出れば再度受診してもらうように説明します。(佐賀大学医学部附属病院 卒後臨床研修センター専任副センター長 江村正)

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