英下院は今月29日に予定されている欧州連合(EU)からの離脱を6月末まで延期することをEUに求める政府動議を可決した。しかし、離脱合意案の議会承認は見通せない上に、承認なしで期限を延ばすだけでは何も変わらない。「合意なき離脱」を回避するために、与野党議員が立場を超えて打開策を探るべきだ。

 メイ首相は下院が2度否決したEUとの離脱合意案を3度目の採決にかける方針で、動議は今月20日までに合意案が可決されることを条件に、離脱期限を6月末まで延ばすとしている。あくまでも現在の合意案に基づく離脱を実現するために、関連法案の成立に必要な時間を確保することが狙いだ。

 ただし、動議は離脱合意案が否決された場合の方針は示しておらず、英政府はさらに長期の延期を示唆している。

 離脱合意案が可決された場合、英政府は今月21、22日のEU首脳会議で6月末までの延期を要請する。承認には英国を除くEU加盟27カ国の全会一致の賛成が必要だが、承認される公算が大きいとみられる。

 しかし、メイ首相がどれだけ指導力を発揮したとしても、1月と今月12日に大差で否決された離脱合意案を、1週間足らずで可決に持ち込むのは難しいだろう。そして、合意案が三たび否決された場合、英政府は離脱合意案の議会承認という交渉カードを持たないまま、6月末を越えたより長期の延期をEUに要請せざるを得なくなることが予想される。

 仮にEUが延期を拒否すれば英国は合意なき離脱に追い込まれるし、延期を承認しても問題解決への展望が開かれるわけではない。離脱強硬派が合意案に強く反対しているのに対して、EUは合意案の大幅な修正には応じない意向だからだ。このままでは、離脱問題は合意案を棚上げにしたまま漂流を続ける恐れがある。

 離脱合意案の最大の難問は、英領北アイルランドとEU加盟国アイルランドの国境管理の在り方だ。国境問題が解決するまでは英国がEU関税同盟にとどまるとする条項があり、強硬派の反発を招いている。

 英政府とEUは今月11日、この条項を2020年末までに代替措置に切り替えるよう双方が「最善を尽くす」ことを付属文書に盛り込むことで合意した。強硬派の懸念は解消できなかったが、EUにこれ以上の譲歩は期待できないだろう。合意案に反対票を投じた議員には、賛成に転じる余地がないか再考するよう求めたい。

 英議会では与野党ともに、党派性を優先して国益を考えないかのような振る舞いが目立ったが、もはやそれは許されない。党派の利害を超えて協力する時だ。

 英政府がEUに対する離脱通知を一方的に撤回することもできる。その場合は、下院の解散・総選挙か国民投票の再実施で民意を問う必要がある。国民投票は英国社会の分断を激化させるリスクがあるが、解散・総選挙は一考に値するのではないか。あらゆる方策を検討すべきだ。

 英国では、金融業の拠点を欧州大陸に移転する動きが加速するなど、経済への影響が既に表れている。合意なき離脱による大混乱を避けるために、英政府、議会関係者の全てが知恵を出し合わなければならない。(柳沼勇弥)

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