しっかり熱が通ったトンカツはかみ応えがあった。口を湿らすため、みそ汁を含む。しょっぱくない。それでいておかずとして成立する不思議な甘さが広がった。

 唐津市紺屋町の「お食事処ありがたや」。店主の正岡美香さんが、両親がかつて営んでいた「ありがたや食堂」の名を継いで始めた。食堂閉店から6年たつにもかかわらず、復活を知った昔の常連がやってくる。

 正岡さんは「自分の店を持ちたい気持ちはずっとあった」と話す。根っこには、汗をぬぐいながら中華鍋を振る父の姿がある。うまいと評判だったチャーハンの注文が重なると、5人分のご飯をいっぺんに炒めた。楽々と鍋を振った父の腕は、何度かの入院を経てすっかり細くなった。

 新店舗のメニューにチャーハンはまだない。「私には重くて鍋が振れない。米のぱらぱらした感じが出せない」と正岡さん。「いつか復活させたい」と話す。

 グルメ紹介(10日付)のための取材は、いつの間にか食堂時代の思い出に移っていた。「ごめんなさいね」。脱線を謝る正岡さんの目が、ぬれたように光ってきれいだった。

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