2019年春闘は、相場全体に大きな影響がある自動車や電機など製造業大手で、基本給を底上げするベースアップ(ベア)が前年水準を割り込む回答が相次いだ。米中貿易摩擦の長期化などによる景気減速を懸念し経営側が慎重な姿勢に終始した結果だ。

 経営環境の変化に備え、コスト増につながるベアを抑制した形だが、賃上げを人材育成など競争力強化のための戦略的投資とする判断もあり得たのではないか。経営者には次回春闘に向け発想の転換を求めたい。

 19年の春闘は、政府がこれまでのように賃上げの数値目標を掲げず、「官製春闘」の色合いが薄まる中で交渉がスタート。その後、中国経済の失速など企業業績への打撃が明らかになる中で、13日の集中回答日を迎えた。政府からの賃上げ圧力が幾分か弱まったため、経営の論理がより強く出た交渉になった。

 こうした中、自動車総連はベアの統一要求を見送った。ベアだけに焦点が当たれば、大手と中小の賃金格差が固定化しかねないとの懸念があったからだ。

 団結してベアを求める姿勢をやや後退させた戦術は、今回の交渉の中で狙い通りの効果を発揮したのか、あるいは、経営側につけ込まれるような隙を与えることはなかったのか、労組としても総括が必要だろう。

 自動車と電機のベア実施は今回で6年連続となったが、業績の下方修正をしたり、早期退職などの合理化に踏み切ったりするケースもあり、企業が守勢に回る姿勢が鮮明になっている。好調な企業業績を背景に積極的に賃上げに取り組んできた流れに変化が出てきたと言えるだろう。

 賃上げによる可処分所得の増大で消費を喚起し、経済に好循環をもたらそうというアベノミクスだが、その起点となる賃上げに勢いが失われた。10月には消費税増税が予定されている。賃金が伸び悩む中で、新たな負担が生じることになる。政府には丁寧な経済政策運営を求めたい。

 企業業績を下押しする要素は米中貿易摩擦のほかにもある。不透明な英国の欧州連合(EU)離脱問題によって欧州経済も脅かされている。米国経済も大型減税の効果が薄れ始め、利上げを停止するなど金融政策によるてこ入れに頼らざるを得なくなっている。

 少子高齢化で国内市場が縮小する中、各社は海外市場の攻略に力を入れてきた。それだけに、海外経済の変調に大きく影響されるのは当然と言えるが、特に中国経済の失速は、企業の債務残高が積み上がったことによる構造的なもので長引く可能性がある。官民を挙げた対策が必要になることも予想される。

 厳しい経営環境をどうやって乗り切るか、それをばねに、いかに強い組織にするかが経営者の腕の見せどころだ。外部環境の悪化を人件費の抑制で吸収する手法は短期的には有効かもしれない。

 しかし、長期的にみれば、賃上げを含め働きやすい労働条件を整え、向上させることが、企業の競争力を維持、強化することにつながるのではないか。過度に守勢になることなく、経営資源をバランス良く配分することが重要だ。人件費は経営を圧迫するコストだという捉え方のままだと、経営戦略の幅も狭められ、商機も失いかねない。(共同通信・高山一郎)

このエントリーをはてなブックマークに追加