懐かしい人の夢を見ることがある。いつだったか、亡くなった知人がバスに乗っている夢を見た。知人はなじみのシャツにジーパン姿。「お元気でしたか」と声をかけたが、無言だった◆夢ではなく、亡くなった人に実際に会ったという話が東日本大震災の被災地では珍しくないそうだ。『リスクと生きる、死者と生きる』(石戸諭著)に紹介してある。例えば、宮城県石巻市のタクシー運転手への聞き取りをもとに書かれた学生の論文には、こんな「幽霊」現象が載っている◆「私は死んだのですか?」―。震災があった2011年3月11日から数カ月たったある日の深夜。震災で娘を亡くしたタクシー運転手が運転する車に、30代くらいの女性が乗車した。女性が震える声で尋ねた時、運転手がミラーから後部座席を見たが、誰もいなかった◆東日本大震災の被災地では今なお行方不明者が2533人いる。生きている人と死者の中間にある「あいまいな死」。この割り切れない思いに残された人はどう向き合うのか。幽霊現象は被災地の人たちの死生観が象徴的に表れていると同書は指摘する◆「本当にあの人は死んでしまったのか」「自分がこうしていれば、助かったのではないか」。埋まらない喪失感と残り続ける後悔の念。震災から8年。行方不明者や死者との対話は今も続いている。(丸)

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