柴山昌彦文部科学相は全国の学校や教育委員会に、いじめや自殺の調査に積極的に協力するよう求めた。大津市で2011年に自殺した中学2年男子生徒の遺族がいじめの加害者とされる元同級生らに損害賠償を請求した訴訟の判決で、大津地裁がいじめと自殺との因果関係を認め、賠償を命じたことを受けて、調査の在り方に言及した。

 大津の事件では、学校側は中2男子へのいじめに気付きながら手を打たず、当初は自殺の原因と認めようとしなかったことに批判が噴出。その反省から13年、いじめ防止対策推進法が施行され、いじめにより児童生徒が心身に大きな被害を受けたり、長期欠席を余儀なくされたりする場合を「重大事態」と規定した。

 学校側は重大事態を速やかに文科省や自治体に報告、第三者委員会を設置して事実関係を調査し、被害者側に情報提供する義務がある。だが自殺の原因で被害者側と学校側はしばしば対立。高校生の自殺で「いじめが主要因」とした第三者委の報告書を学校側が受け入れないという前代未聞のことまで起きている。

 子どもの尊厳と命を守るため、いじめの早期発見と対処、再発防止を目指す仕組みが十分機能せず、学校側の保身や怠慢がうかがえる例も少なくない。深刻というほかない。いじめ防止法の趣旨を改めて現場に徹底、浸透させる必要がある。

 大津地裁判決は元同級生2人の暴行や執拗しつような嫌がらせが中2男子自殺の主たる原因と認定。一連の行為を重ねる中で「自殺を予見できた」「自身の行為の責任を認識できた」とし、2人に3700万円余りの支払いを命じた。この種の訴訟でいじめと自殺の因果関係に加え、予見可能性も認めるのは異例のことだ。

 自殺の直後、学校は全校生徒アンケートを実施し、市教委は「いじめと自殺との因果関係は判断できない」と発表。遺族は元同級生らと一緒に市も提訴した。市側は争う構えを見せたが、後にアンケートの回答に「自殺の練習をさせられた」などの記述があったと分かって和解に転じ、第三者委に再調査を委ねた。

 遺族が地裁判決にたどり着くまで7年余りかかった。このときの教訓が今に生かされているかというと、残念ながら、そうはなっていない。長崎県で17年4月に私立高2年の男子生徒が「さんざんディスられた(侮辱された)」と書いた手記を残して自殺。学校側が設置した第三者委は「同級生のいじめが主要因」とする報告をまとめた。

 ところが学校側は今年1月、報告を受け入れない旨を遺族に伝え、損害賠償請求権を放棄するなら死亡見舞金について考えると話したという。

 これは極めて特異な例としても、重大事態を巡る学校や行政の対応は総じて鈍く、いじめの認定に及び腰だ。16年にいじめを訴え自殺した青森市立中2年女子生徒について、市の審議会は原因として「思春期うつ」の可能性を指摘。遺族の抗議で再調査が行われ、18年に「自殺の主要な原因はいじめ」とする最終報告が出た。資料の出し渋りや隠蔽(いんぺい)も珍しくない。

 いじめを放置するなど適切に対応しない教職員を懲戒処分の対象にすると明記したいじめ防止法の改正案も議論されているが、子どもを守るという姿勢を現場に根付かせる意識改革なしに多くは期待できないだろう。

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