外交交渉で「悪魔は細部に宿る」という言葉がある。総論では合意しても、具体的な各論で理解の差が露呈、交渉が難航するという意味だ。

 ハノイで2日間にわたり開かれた米朝首脳による再会談は、合意文書の署名を見送り、事実上、決裂した。昨年6月にシンガポールで行われた初の首脳会談でトランプ米大統領と金正恩朝鮮労働党委員長が署名した共同声明が総論だとすれば、今回は各論での合意をまとめることが最大の目的だった。

 会談決裂という結果が米朝両首脳に与える政治的ダメージは小さくない。しかし、だからといって再び対決的な姿勢に回帰すれば、首脳会談を2回開いた意義を自ら否定することになってしまう。北朝鮮の非核化と米朝の敵対関係解消は、後戻りさせてはいけない歴史的な課題なのだ。失望せず、粘り強く交渉を継続するよう米朝両首脳に求めたい。

 決裂の理由はいくつか考えられるが、非核化の定義をあいまいにしたまま、交渉を進めようとしたことが最大の要因だろう。

 米国は北朝鮮の完全な非核化を求めているが、北朝鮮は自国だけでなく朝鮮半島とその周辺に米国の核戦力が接近しないよう求めている。

 北朝鮮のこうした非核化認識は、日本と韓国に対する米国の伝統的な「核の傘」に変更を迫るもので、北東アジアの安全保障環境に深刻な影響を与える。非核化の定義を米朝が一致させ、周辺国からも理解を得るような議論がまずは必要だ。

 その上で、核施設の解体や核物質の除去、大陸間弾道ミサイル(ICBM)など核弾頭を運搬する手段の廃棄を実行に移すためのロードマップづくりに取り組むべきだ。

 「会談開催ありき」の流れが、決裂につながった点も見逃せない。昨年6月の首脳会談でも指摘されたが、米朝首脳のトップダウンの決定に、実務協議が追いつけない弊害が、ハノイでそのまま露呈した。

 今回、首脳会談の日程が決まってから断続的に約1週間行われた実務協議は、難航を重ねたとされる。非核化と米朝関係の改善、朝鮮半島の平和体制構築など半世紀以上にわたる課題を克服しようとする合意文書を練り上げるには、あまりにも時間が足りない。今後、実務協議をするにせよ、3回目の首脳会談で仕切り直しをするにせよ、拙速は禁物だ。

 1回目の首脳会談は「政治ショー」との批判も受けたが、少なくとも米朝間の緊張は緩和された。非核化の具体的措置があいまいなままで方向性も定まらない状況が長期化しないよう、朝鮮半島を取り囲む関係国が米朝双方に協議継続を働きかけることも欠かせない。

 米朝の首脳外交が足踏みする事態は、日本人拉致問題という懸案を抱える日本にも好ましいことではない。日本独自に北朝鮮への働きかけを強め、米朝が相互理解の幅を広げるような役割を果たせないか検討することも重要だろう。

 トランプ大統領は今回の首脳会談でも安倍晋三首相の要請を受け、拉致問題解決を金委員長に促した。拉致問題を解決すれば米国も評価するという構図を北朝鮮に意識させ、日朝国交正常化に伴う経済支援というテコを活用できる選択肢があることを北朝鮮に認識させるアプローチが必要だ。(共同通信・磐村和哉)

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