長崎や広島で被爆した親を持つ九州の被爆2世の人たちが武雄市で交流会を開き、九州各県に被爆体験を語り継ぐ人を育成する制度を設けるよう要望することを決めた。国は本年度から、被爆者本人に代わって被爆体験を語り継ぐ「伝承者」の活動を支援している。長崎、広島市への派遣要請も増え、伝承者育成が新たな課題になっている。伝承活動を被爆地任せにせず、隣県の佐賀でも支えたい。

 広島、長崎への原爆投下から74年目を迎えている。被爆者は高齢化し、亡くなる人も増えている。厚生労働省によると、2018年3月末時点の被爆者は15万4859人で平均年齢は82・06歳。10年前の2008年の24万3692人、75・14歳と比べると、9万人近く減っている。被爆者自身が語る「語り部」活動も先細っている。

 厚生労働省は本年度から、伝承者の活動への支援を始め、旅費や宿泊費、謝礼を負担している。支援事業を契機に伝承者の派遣依頼は急増している。長崎市の場合、17年度に36件だった派遣実績は、18年度は2月現在で102件に増えている。3倍近い数字で、要請は北海道など全国に及んでいる。

 父の被爆体験を紙芝居で伝え、武雄市での交流会にも参加した「被爆二世の会・長崎」の佐藤直子会長(54)は「国の支援によって全国から依頼が来るようになった。一方で、伝承者が増えないという問題も改めて浮かび上がっている」と指摘した。さらに全国を回った経験談として「子どもたちだけでなく、今の世代の先生たちも原爆のことは詳しく知らない」と、原爆の実相を伝えなければならない世代が増えている実情も訴えた。

 被爆体験を次世代に受け継ぐ活動は、被爆者本人から2世や3世、さらに被爆者とは直接の関係がない一般の人たちに広がっている。長崎では「家族・交流証言者」、広島では「被爆体験伝承者」と呼び、被爆体験記を朗読するボランティアも養成している。広島市で12年度、長崎市で14年度から育成に取り組んでおり、だれでも参加できる。

 長崎市の場合は、まず被爆者と伝承希望者の交流会を開き、被爆者から体験を聞く。伝承者になることを決めた人は登録者になり、被爆者1人あたり数人のグループをつくってさらに話を聞き、体験談をまとめていく。短い人で1年、長い人では数年で「家族・交流証言者」になり、各地に出向いて被爆体験を語り継いでいる。2月現在の登録者は72人で、証言者は25人。登録者の17人、証言者の2人は県外の人だ。

 「核」を巡る近年の情勢に目を向けてみる。日本は核兵器禁止条約に参加せず、米露は中距離核戦力(INF)全廃条約からの離脱を表明した。核廃絶に向けた時計の針は逆戻りしている。長崎を最後の被爆地にするため、唯一の戦争被爆国の日本の役割が改めて問われている。被爆体験継承も新たな段階ではないか。

 武雄の交流会では「広島、長崎任せにしないためにも、被爆地以外で伝承者育成の制度を」という声が上がった。佐賀県独自の育成事業は難しい面もあるだろうが、長崎の養成事業を広く伝えることや、参加希望者の費用助成などは可能だろう。何らかの取り組みを考えたい。(小野靖久)

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