病院の待合室で、「〇〇先生は〇〇大学の卒業だそうよ」と、世間話をされている患者さんの家族がいました。果たして、有名な大学を卒業した医者が優れた治療をされているのだろうかと疑問を抱きました。私の個人的な考えですが、あまり関係がないように思います。例えば、精神科診療の例を取り上げると、ほとんどすべての精神疾患の原因はいまだに不明で根治療法はありません。いろんな方法で、患者さんの苦痛が少しでも軽くなるように、最大限の努力はしているつもりですが、うまくいかない場合も多々あります。

 このような現実を鑑みると、精神科治療においては、治療者にとって、〇〇大学の卒業という意味は、高校卒業時は優れた成績で医学部に入学し、卒業されたかもしれませんが、医師免許を取得し、一旦医療の現場に入ると、分からないことばかりで、知識で患者さんがよくなることはまれであり、そこには、もっと大切なことがあると思います。

 それは、治療を中断せずに継続していくための医師と患者の信頼関係(医師患者関係)と医療者の患者さんに対する情熱かもしれません。また、医学部を卒業して、日々患者さんと向き合いながら、新しい知見も得るために、たゆまない学習(生涯学習)をずっと続けているか、これは非常に重要だと思います。日々、一見、すばらしいエビデンスが雑誌に報告されていますが、それで医療が大きく変化することは少ないのが現実ですが、新しい情報を学ぶ努力をされている医者はすばらしいと思います。

 中国の医療現場を見学に行った際、びっくりしたことは、病院の前に顔写真と経歴(出身大学、資格、経験年数)が提示され、その医者の1回の診察料まで書かれてあったことです。日本では、医師の経験年数によって診察料が異なることはありませんが、将来、臨床能力があるかを客観的に評価し、診察料もそれに応じて違いが生じる可能性はあります。その良しあしは別として、治療においては出身大学の名前ではなく、医者との相性や安心感の有無が大切だと思います。(佐賀大学保健管理センター教授・精神保健指定医 佐藤 武)

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