鳥栖市を二分して論戦を繰り広げた市長選は17日投開票され、現職の橋本康志氏(63)が4選を決めた。44・58%で過去最低を更新した投票率の下、わずか10票差での信任だった。市民は橋本市政の12年間に物足りなさを突きつけた。対立しがちな議会と対話し、職員と意思疎通を図って、人為的なミスが続いた市役所を立て直し、政策実現のスピードアップを図ることが求められている。

 2016年の熊本地震で学校給食センターが被災した問題では、不適切な工事箇所が見つかったのに公表せず、問題を長期化させた。昨年9月に発覚した新産業集積エリア整備の用地買収に絡む農地法違反問題も同様で、違反状態を把握しながら1年以上公表せず厳しい批判を浴びた。橋本市政3期12年かけて積み上げてきた鳥栖駅周辺整備は昨年12月、計画発表から5日後に白紙に戻した。さらに2市3町のごみを処理する次期ごみ処理施設整備では、建設予定地から有害物質が見つかった。計画見直しを余儀なくされるとともに、処理費用が課題となりそうだ。

 ここ数年の市政は、人為的なミスが繰り返され、情報公開にも消極的で、説明を聞いてもよく分からないことが続いた。

 新産業集積エリア整備や駅周辺整備に加えて、国史跡・勝尾城筑紫氏(かつのおじょうちくしし)遺跡整備など、タフな用地交渉が絡む事業はなかなか進まないのが実情だ。

 市長選の前から「士気が下がっている」との指摘が聞かれていた市役所の点検、立て直しが必要である。事業の必要性を粘り強く説いて理解を得ていくような折衝力、施策を強力に前に進める推進力を磨く。たとえミスがあっても早期に発見し是正できるチェック機能や職員間の連携なども欠かせない。それには組織内の風通しを良くすることも大切だろう。

 橋本市長が唐突に政策転換することも混乱を招いている。市庁舎建て替えは熊本地震後に否定していた。その半年後、実施設計まで済ませていた温水プールを財源確保のために先送りして建て替えることを突然、表明した。建て替えを市幹部に伝えたのはその数日前とされる。駅周辺整備の撤回も同様で、計画発表直後に断念を伝えられた幹部らは落胆し、動揺を隠せないでいた。

 今後の市政発展の目玉と期待された国家戦略特区の国への提案も、駅周辺整備と一体で検討していた、東西市街地を結ぶ都市計画道路整備についてもトーンダウンしてしまっている。

 鳥栖市では確かに大型事業が動き始めている。しかし、十分な説明もないまま政策が転換されることで、どんなまちにしていきたいのか、イメージが立ち上がってこない。当面は人口増が続くと予想されているが、供給源となっている周辺自治体の人口は減り始めており、少子高齢化の難題を避けて通れない。ならばこそ、次代を見越したビジョンと揺るがない政策が必要である。

 吉田松陰は「夢なき者に成功なし」という言葉を残している。夢があって初めて実現のための具体策を考え始めるし、それを実行して成功に至る、という教えだ。市政を預かって4期目に入る、橋本市長は市民に夢を語り、将来ビジョンを示し、市政を確実に前に進める責任がある。

(高井誠)

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