静岡県で1966年に一家4人が殺害された強盗殺人事件で死刑が確定した元プロボクサー袴田巌さんを主人公にした漫画を日本プロボクシング協会が制作、インターネット上に公開した。無実の視点から、事件・裁判の経過や袴田さんと周囲の人々の歩みなどを全6回で描いている。7月にかけて、毎月15日に1話ずつを掲載していく。

 再審請求審で静岡地裁が弁護側提出のDNA鑑定などを基に再審開始を決定したのは2014年3月のことだ。死刑執行と拘置の停止も認め、袴田さんはほぼ半世紀ぶりに釈放された。しかし検察側が即時抗告。4年の審理を経て18年6月、東京高裁は再審開始を認めない決定をし、今度は弁護側が即時抗告した。

 漫画のタイトル「スプリット・デシジョン」は、ボクシングで審判3人の判定が2対1に割れたときの用語。死刑、再審開始、開始せず―と揺れる司法判断に翻弄(ほんろう)され続ける袴田さんの半生と重なる。だが第1次再審請求から38年、再審開始決定からも5年がたとうとしている。審理の舞台は最高裁に移ったが、まだ時間がかかりそうだ。

 不安定な立場はいつまで続くのか。再審請求を巡り証拠開示が法律に規定されていないことなどが審理の長期化を招いているとされる。しかし打開策は棚上げになったままだ。証拠開示の規定を設けるなど、再審制度の法整備を急ぐべきだ。

 再審は、有罪が確定した刑事裁判を公開の法廷でやり直す手続きで、「無罪を言い渡すべき明らかな証拠」が見つかったときに限り開かれる。開かれれば、無罪判決が出るのは確実なため、再審を開始するか否かを決める非公開の再審請求審が“決戦”の場になる。

 ただ検察側が一定の証拠を開示する通常の公判と違い、審理の進め方などの規定は少なく、証拠開示のルールは定められていない。出す出さないは検察官次第、それを求めるかどうかは裁判官次第ということになり、証拠開示を巡るやりとりが延々と繰り返される。

 袴田さんの第1次再審請求も、このやりとりなどで結論が出るまで27年かかり結局、証拠開示はなかった。08年の第2次請求からは裁判所の積極的な訴訟指揮もあり、検察側は法廷に出していなかった約600点もの証拠を開示したが、最初から出されていれば、もっと効率的に審理を進めることができただろう。

 時間の経過とともに関係者の記憶は薄れ、新証拠を見つけるのは難しいため、検察などが手元に残している証拠は重要になる。この問題は捜査・公判改革を議論した法制審議会の部会でも取り上げられた。しかし「通常の公判で行う開示の仕組みを再審にも活用すべきだ」という意見は反対派に押し返され、具体的な案にはならなかった。

 もう一つ、検察の抗告も長期化の要因に挙げられる。いったんは再審開始決定を手にしながら検察側の抗告を経て取り消され、新たな再審請求中に亡くなった元死刑囚もいる。ドイツは1964年の法改正で再審開始決定に対する検察官の抗告権を排除した。日本でも禁止、検察に不服があれば再審公判で吟味すべきだとの指摘も出ている。

 袴田さんについては地裁と高裁で正反対の判断になり、最高裁は慎重に検討しているとみられる。その結論がいつになるかは全く見通せない。(共同通信・堤秀司)

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