厚生労働省の統計不正発覚時の責任者である同省の元政策統括官が、ようやく国会の答弁に立った。しかし、不正を知ったのは「昨年12月」と述べるにとどまり、調査に当たった厚労省の特別監察委員会の委員長も、独立行政法人理事長の立場で出席していることを理由に、これまで同様に答弁を拒否し、事態の究明は進まなかった。

 国会の冒頭から大きな焦点になった不正問題は、日本の政府の統計に対する国際的な信用性が揺らぐ状況を招いている。にもかかわらず、自民党は当初、元政策統括官が更迭され、現在の担当者でないとして、野党の国会招致要求を拒んだ。答弁回避のために人事異動させた「証人隠し」と非難され、2019年度予算案の審議入りと引き換えに、姿勢を転換した格好だが、監察委員長としての発言を認めないという姿勢と合わせ、真相解明に後ろ向きと言わざるを得ない。

 今回の不正にはいくつもの「なぜ」が浮かぶ。まず04年から東京都の500人以上の企業について、定められた全数調査ではなく、抽出調査に変えた動機は何か。監察委は、都や企業側の要望と結論付けたものの、都側が否定し、不正調査のずさんさを露呈してしまった。

 二つ目は、15年分以降、都道府県向けのマニュアルから抽出調査の記述が削除され、18年分は突如、全数調査に近づけるようデータの補正を始めた理由だ。統計を所管する総務相にも届けずに、行われた。

 三つ目は、不正調査で算出された実質賃金の伸び率である。昨年1月分から調査方法を変更し、担当者がひそかにデータ補正したことで実際より上振れしていたという。野党の試算では、昨年1~11月の賃金の伸び率は大半でマイナスとなり、根本匠厚労相も事実上認めたが、政府試算の公表には二の足を踏む。

 そして不正判明後の対応である。厚労省では昨年12月から監察チームが監察委の有識者に連絡することなく、身内だけで担当者の聞き取りを開始。監察委が立ち上がってからも、関係者聴取の約7割は身内のみで実施したため、第三者による中立性、独立性が崩れた。結局やり直しに追い込まれる、拙速で中途半端な調査に至った経緯も明確にしなければならない。

 こうした疑問に共通するのは、厚労省の組織的な隠蔽いんぺい体質と組織防衛の姿勢だ。

 解せないのは、自民、公明両党が8日の衆院予算委員会で、元政策統括官を問いたださなかった点だ。ここまで国会招致を拒否してきた手前、質問しにくかったのかもしれない。だが、監察委員長の“口封じ”も含め、「徹底した検証」を強調しながら、追及しない与党ならば、隠蔽に加担していると批判されても、仕方あるまい。

 病巣を突き止め、責任の所在を明確にする。真相をあいまいにしたまま、再発防止策を打ち出しても、実効性はおぼつかない。アベノミクスの成果に胸を張るならば、堂々と政府試算の数字を公表してもらいたい。不祥事続きの厚労省の立て直しはそこから始まる。

 政府の自浄作用に疑義が生じたいまこそ、国会が行政監視の責務を果たす場面だ。政権の下請け機関という汚名を返上するには、与党議員である前に、立法府の一員としての自覚が問われている。(共同通信・橋詰邦弘)

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