北方領土問題を含むロシアとの平和条約締結交渉では難しい駆け引きが強いられるのは理解できる。しかし、領土を巡る歴史に基づく法的解釈は交渉の土台としてあくまでも堅持すべきだろう。

 2月7日の「北方領土の日」に、政府と民間団体による「北方領土返還要求全国大会」が東京都内で開かれ、安倍晋三首相は「着実に領土問題の解決に取り組んでいく」と決意を強調した。

 しかし、大会で採択されたアピールでは、昨年までの大会アピールにあった「不法に占拠され」との表記が削除された。「固有の領土」との文言は残っているが、「北方四島の早期返還の実現を目指す」との記述も「北方領土問題の解決を目指す」と変わっている。

 国会でも、安倍首相や河野太郎外相が「不法占拠」や「固有の領土」との答弁を避ける場面が続いている。

 交渉の過程でロシア側を刺激しないために、歴史的経緯に基づく対立を表立たせたくないとの配慮があるのかもしれない。だが、ロシア側は北方領土が第2次大戦の結果として正当にロシア領になったと明確に主張している。日本側だけが譲歩している印象は否めない。

 第2次大戦の戦争終結を公式に確認する平和条約を結ぶには、領土に関する歴史認識を巡る協議は避けて通れない。互いの主張を乗り越える知恵を出していく。それが歴史の検証に堪えうる交渉ではないか。

 「北方領土の日」は1855年に歯舞、色丹、国後、択捉の4島を日本の領土とする国境線を定めた日露通好条約の調印日にちなんだものだ。

 日本政府は第2次大戦後に一時、国後、択捉の放棄を認める国会答弁があったものの修正し、それ以降は、日露通好条約を基礎に、北方領土は「一度も外国の領土となったことのない固有の領土」との見解を維持。大戦末期の1945年8~9月に当時のソ連が日ソ中立条約を破って占領し、不法占拠が続いていると主張している。外務省のホームページにも明記している公式な見解だ。

 これに対してロシア側は、北方領土を含む千島列島をソ連領とする45年2月の米英ソ3国のヤルタ協定などを根拠に、大戦の結果として合法的にロシア領に編入されたと主張している。

 ロシア側の主張を認めれば、領土問題は存在しないことになる。日本側は密約だったヤルタ協定には拘束されないなどと反論している。「固有の領土」「不法占拠」という文言は、歴史に基づく日本側の主張の根幹部分と言えるだろう。

 ところが首相は昨年11月のプーチン大統領との首脳会談で「平和条約締結後の歯舞、色丹2島の引き渡し」を明記した56年の日ソ共同宣言を基礎に交渉を加速させると合意して以降、国会答弁で「不法占拠」などの表現を避けている。6日の参院予算委員会でも「固有の領土」かと認識を問われたのに対し、「わが国が主権を有する島々」との表現を繰り返した。「交渉姿勢は全く後退していない」とも答弁したが、なぜ言葉を言い換えるのか。疑問は拭えない。

 歴史認識の違いを乗り越える交渉は大変な作業だろう。だが4島の主権問題をどう整理し、打開策を見いだしていくのかは平和条約交渉の焦点だ。国民に丁寧に説明し、理解を求める責任が政府にはある。(共同通信・川上高志)

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