忘れもしない。高校の柔道の最初の授業だった。「おい」と指名を受けて立ち上がると、指導教師にいきなり足技をかけられて宙に浮き、そのまま畳にドスンと落ちた。受け身もろくにけいこしていない初心者。柔道への恐怖心が先に立った◆教師は生徒たちの前で華麗な技を決めたと思ったのだろう。ちょっと得意そうな顔をしていた。その表情も忘れられない。彼はその後、佐賀県の柔道界で活躍したと聞く◆柔道の部活動中に大外刈りで投げられ、頭を打って死亡した福岡の中学1年の女子生徒(当時13歳)の父親が全日本柔道連盟に損害賠償を求めた裁判のニュースが先月末あった。「警察官になりたい」と中学で柔道を始めた生徒を襲った突然の事故だったという◆『柔道事故』著者で名古屋大学大学院の内田良准教授の調査では、学校の柔道で1983年度以降、121件の死亡事故が起きている。全柔連も「初心者には大外刈りの投げ込みを受けさせない」と事故防止を呼び掛ける通知を出しているが、頭を打って一時意識不明になるなどの重大事故はなくならない◆女子生徒の父親は「起きてからでは遅い。防止に全力で取り組んで」とブログにつづる。柔道に限らず、部活で子どもを亡くした親の悲しみは計り知れない。重大事故から学び、指導者の教育も徹底してほしい。(丸)

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