買い物などでポイントがたまる「Tカード」の運営会社が会員の個人情報を裁判所の令状なしに捜査当局に提供していたことを公表した。2012年まで令状の提示を条件にしていたが、警察や検察が内部手続きを経て出す「捜査関係事項照会書」でも情報提供に応じるよう要請があり、条件を緩和した。会員には知らせなかったという。

 この問題は国会でも取り上げられ、警察庁は要請を認め、提供された情報について「紛失などがないよう組織的に管理し、保管の必要がなくなれば確実に廃棄する」と強調した。しかしカードは個人の氏名、住所は言うに及ばず、買い物やレンタルの履歴などが蓄積された個人情報の塊だ。

 やはり照会によって当局は防犯カメラの映像や交通機関の自動改札通過記録、病院のカルテ情報などを集めている。いつ、どこにいたか、何をしたかといった機微情報が本人も知らないところで頻繁にやりとりされるが、照会は内部手続きにすぎず、取得の目的などに外部チェックは働かない。必要なくなった情報の廃棄も検証できない。

 警察官が私的な目的で不正に照会を行う事件はたびたび起きている。照会で得たとみられる個人情報を含む警察内部資料の流出もあった。捜査に関連する個人情報取得の要件や手続き、管理・破棄、さらに外部チェックについて明確なルールを早急に定めるべきだ。

 ある事件で警察が対象者のTカード情報を照会したところ、ほぼ毎日、同じ時間帯に特定のコンビニで買い物をしていることが分かり、店の防犯カメラ映像から本人と確認。待ち伏せして身柄を押さえた。カード情報はこのように使われ、他のカードを扱う各社も情報提供の基準に多少違いはあるが、応じている。

 刑事訴訟法は捜査について「公務所または公私の団体に照会して必要な事項の報告を求めることができる」と規定。回答拒否に罰則はなく、照会書に裁判所の令状のような強制力はない。ただ個人情報を本人の同意なく第三者に提供することを禁じる個人情報保護法も警察などの照会を例外としており、企業の多くは任意に提供している。

 憲法が保障する「通信の秘密」に関わる携帯電話会社の通信履歴などの取得には、捜索差し押さえ許可状など裁判所の令状が必要となる。警察にとって照会は令状請求を省ける利点があり、特殊詐欺で犯行に使われた携帯電話や預貯金口座の契約者を調べるために照会書発出件数が増えた。

 照会書は相手方に郵送されるが、インターネットを介した犯罪の広がりもあって照会が増加し、メールで行うなどの電子化も検討されている。

 捜査とプライバシーを巡っては、最高裁が17年、令状なしに捜査対象者の車に衛星利用測位システム(GPS)端末を取り付ける警察の捜査手法を違法とする判決を言い渡し「必然的に個人の行動の継続的、網羅的な把握を伴い、プライバシーを侵害し得る」「公権力による私的領域への侵入を伴う」と指摘した。

 行動の継続的、網羅的な把握なら、照会で複数箇所から取得した個人情報を突き合わせることでも可能になろう。個人の思想・信条をあぶり出すこともできる。犯罪と関係なくても、警察が市民団体などを監視するため恣意(しい)的な情報収集を行う恐れも否定できない。(共同通信・堤秀司)

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