泥沼に陥ったと言うほかない。厚生労働省の毎月勤労統計の不正問題は、一段と広がりを見せ、国会の代表質問など論戦でも、安倍晋三首相をはじめ政府側は防戦一方に追い込まれた。

 事態を深刻化させた誤りは、厚労省の特別監察委員会のずさんな調査だ。15年にもわたる不正に対して、わずか1週間足らずで報告書をまとめた判断は、問題の根深さを軽視したと言わざるを得ない。核心部分に切り込まない特別監察委の報告書が、行政不信に拍車を掛けている。

 国会召集までに間に合わせたいと、監察委の時間的な「出口」を設定すれば、調査はおざなりになる。歴代の担当者に対する聞き取りは身内を使わざるを得ず、調査対象の7割近くを身内の職員だけで実施、第三者による中立・公正な調査という性格が崩れた。「企業の苦情や都道府県の要望」を不正の動機に挙げながら、自治体側に事情を聴くこともなかった。

 担当者への聴取に、事務方ナンバー2の厚労審議官や官房長が同席した点も、不正問題の影響を最小限にとどめ、組織を守りたいという「役所の論理」が浮かぶ。こうした行為は「組織的な隠蔽(いんぺい)」と批判されても仕方あるまい。根本匠厚労相をトップとする巨大官庁のガバナンスの欠落は目を覆わんばかりだ。

 全数調査を抽出調査でごまかしていた長期間の不正を、厚労相ら政治家が見抜くのは難しいかもしれない。だが、発覚後の対応になれば、話は別である。厚労相ら政治家サイドが前面に出なければならないからだ。その意味で、監察委が調査の全面的なやり直しを余儀なくされたという今回の大失態は、政治の責任にほかならない。

 不正は飛び火する。勤労統計と同じ基幹統計に位置付けられる「賃金構造基本統計」でも、本来の「訪問調査」ではなく、「郵送調査」を行っていたことが判明した。不正を認識しながら、虚偽の説明をして、予算を計上していた可能性があるという。

 立憲民主党の枝野幸男代表は代表質問で「事態の深刻さを理解しない根本厚労相を罷免すべきだ」と迫ったが、安倍首相は「事案の検証や再発防止の先頭に立ってもらいたい」と拒んだ。

 根本厚労相は、特別監察委の初会合で「政府統計の信頼を毀損(きそん)する極めて重大な事案で、事実関係をしっかりと解明し国民に説明することが必要だ」と強調した。にもかかわらず、拙速な、しかも身内による「お手盛り調査」を容認した責任は何よりも重い。今回の混乱、不信を招いた厚労相に、不正の検証や再発防止を指揮する資格はない。

 今回の不正は、日本政府の統計に対する国際的な信用を傷つけかねない。勤労統計の賃金データを巡り、抽出調査のままの2017年と、全数調査に近づけるようひそかに補正処理を行った18年を比較した手法も、上昇率を上積みさせるためではないか、と野党は疑いの視線を浴びせる。

 施政方針演説でアベノミクスの成果を高らかに訴えた安倍首相も、「賃金偽装」「アベノミクス偽装」(国民民主党の玉木雄一郎代表)と呼ばれるのは本意ではないだろう。根本厚労相らのここまでの取り組みに大きな疑義が生じている以上、新たな体制をつくって徹底解明させるのが筋ではないか。(共同通信・橋詰邦弘)

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