通常国会が召集され、安倍晋三首相の施政方針演説が行われた。首相は皇位継承に伴う時代の区切りを強調、「平成の、その先の時代」というフレーズを7回も繰り返し、新しい時代に向けた政策展開をアピールした。

 だが今起きているのは、それらの政策立案の基礎となる政府統計で不正調査が行われ、政府に対する信頼が損なわれているという事態だ。首相は演説の中盤で厚生労働省による毎月勤労統計の不正を陳謝したものの、具体的な再発防止策などへの言及はなかった。

 相次ぐ公文書改ざんや公的データの不適切な処理は、行政と議会の関係を損ない議会政治の基盤を揺るがす問題だ。首相は行政の最高指導者としての責任感に欠けるのではないか。厳しい自覚を求めたい。

 首相は演説で、これまでのアベノミクスの実績を強調。子どもから高齢者まで安心できる「全世代型社会保障への転換」や、10月に予定する消費税率引き上げによる景気の腰折れを防ぐための対策などを列挙した。

 外交分野では「戦後外交の総決算」を掲げ、ロシアとの北方領土交渉や北朝鮮による日本人拉致問題の解決に取り組む決意を強調した。

 しかし、新しい時代に向かう前に、まず行うべきなのは、これまでの政策の成果を検証することだろう。政府の基幹統計の多くで判明した不適切な処理は、首相が強調するアベノミクスの「成果」そのものに疑問符を突きつけている。国会審議で厳しく精査すべきだ。

 演説で目立ったのは、4月の統一地方選や衆院補選、7月の参院選をにらみ、国民に聞こえがいい政策を列挙したことだ。全世代型社会保障の柱としては幼児教育の無償化を掲げ、待機児童ゼロ目標の実現、介護の受け皿整備などを並べた。

 その安定的財源として消費税増税の必要性に理解を求める一方で、軽減税率の導入に加え、プレミアム付き商品券発行やキャッシュレス決済時のポイント還元などを列挙し「頂いた消費税を全て還元する規模の十二分な対策を講じる」と述べた。

 だが問われるのは、これらの政策で安心できる日本の将来像が描けるのかという問題だ。

 膨張する社会保障費や防衛費に加え、選挙を意識した大盤振る舞いとも言える景気対策や公共事業費の伸びで、2019年度当初予算案の一般会計総額は初めて100兆円を超えるまでに膨れあがった。首相は「明日を切り拓ひらく」と意気込むが、本来取り組むべき持続可能な社会保障制度の構築や、先送りした財政健全化について踏み込んだ言及はなかった。

 「外交の総決算」は歴代最長が視野に入る政権のレガシー(政治的遺産)づくりが念頭にあるのだろう。だが求められるのは、決意の表明ではなく具体的な成果だ。

 元徴用工訴訟判決などで冷え込む韓国との2国間関係については言及すらしなかった。首相は「新しい時代の近隣外交を展開する」と述べたが、隣国である韓国との修復は不可欠ではないか。

 憲法改正については、国会での議論の深化に期待感を示すにとどめ、各党に改憲案を示すよう迫った昨年の施政方針からトーンを下げた。参院選前は有権者の歓心を買うような政策を並べ、選挙後に持論に本腰を入れるという手法を繰り返すのか。真意を見極めたい。

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