ロープを投射する近距離もやい銃を構える海上保安官

 冬になると、海上保安庁に入庁し初めて救助に携わった事案を思い出します。

 20年前、初任地北海道で大型巡視船に配乗した際、外国貨物船が故障し漂流、陸岸に乗り上げる恐れがあるとの情報があり、出動しました。

 到着した日本海沿岸は冬の低気圧通過で酷寒吹雪、雪が顔に刺さり、鉛色の海がうねります。風が陸の岩場に向け連吹する中、外国貨物船は船首から錨(いかり)を伸ばし耐えています。座礁を避けるため水深が浅くなったところで錨を打ち留まったのです。

 錨のチェーンはピンと張ったまま、船首はガクガク不規則に上下し、波しぶきを上げ、赤い船底も見え隠れします。船首に乗組員8人程が横一列にしがみつき、顔をこちらに向けています。よく見ると船首左右にあるはずの錨のうち右錨がちぎれ、海底へと伸びる左錨のチェーン1本がこの痛々しい状況を支えています。

 この悲痛な情景でただ「助けたい!」と強く思い、寒さも忘れ作業しました。

 この後、曳航(えいこう)作業は無事進み、外国貨物船を港に曳(ひ)き入れました。

 入港後、曳航に使用したロープ投射用の弾頭を外国貨物船へ取りに行くと、荒々しいイメージの外国船員が私の周りに集まり、1人が恭しく大事そうに弾頭を渡しました。

 お互い言葉を交わさず目を見て固い握手だけしました。安堵(あんど)の表情を浮かべています。船に戻る途中、何度も「よかった」と心の中で繰り返しました。

 海は多種多様な恩恵を受ける反面、荒々しくもあります。海での安全無事を常に願っています。(唐津海上保安部管理課・成田俊吾)

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