日本では、診察室に患者さんを呼び入れます。「様」で呼ぶのか「さん」で呼ぶのか、いろいろな議論がなされてきましたが、今は、私は「さん」で通しています。どのように呼ぶかよりも、どのように良好な人間関係をつくるか、が大事だと思っています。

 初めて来られた患者さんは慣れない場所で緊張されていると思いますが、医師も同じです。「患者医師関係」を構築する始まりであるとともに、診断の始まりでもあります。入室されたところから気が抜けません。医師の診察は、まず「視診」から始まります。ジロジロ見てすいません。でも、椅子に座られるまでの短時間に、分かることがたくさんあります。

 たとえば、前かがみの歩き方をされているとします。よちよちとした小刻みな歩き方で、移動に時間がかかる場合は、パーキンソン病ではないかと考えます。いつ頃からか分からないけど、動作が鈍くなった、と言われて、手が振るえていたら、その可能性はかなり高くなります。他には、顔をしかめてそろりそろりと歩かれる場合は、盲腸(急性虫垂炎)の痛みがおなかに響かないようにしている可能性があります。同じ前かがみでも、机や手すりを上手に使い、さっさと椅子につかれる場合では、腰部脊柱管狭窄症という背骨の変形を疑います。

 歩き方以外にも、顔の表情(同伴する家族の表情も含めて)、話し方、皮膚の色、においなど、病気の診断や人間関係の構築のきっかけになる情報がいろいろあります。どこかしら、探偵のような観察力と推理力が求められていると言っても過言ではありません。

 なお、米国では、患者さんは、先に診察室に入って着替えて待っておられます。医師は、まるで患者さんの部屋を訪問するように、ノックをして部屋に入り、あいさつと自己紹介をします。このやり方だと患者さんは言いたいことがいろいろ言える気がします。少なくとも、電子カルテに向かって患者さんの方をあまり見ずに診察がスタートする、ということはなくなると思います。(佐賀大学医学部附属病院 卒後臨床研修センター専任副センター長 江村正)

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