残念のひとことである。第72代横綱稀勢の里。もう限界か、いや復活はあると、祈りにも似た気持ちで応援していたが、引退会見でこぼれる涙をぬぐう姿に「本当にご苦労さまでした」と心の中で声をかけた◆感情を表に出さない愚直な姿勢は、昔ながらのお相撲さんそのものだった。中学を卒業するとすぐに角界入りしたのは、脱サラして独立した父親が事業に苦戦していたので早くお金を稼ぎたかったからという。しかも角界随一の稽古量と知って鳴戸部屋の門をたたいた◆思い出すのは2017年3月。3代目若乃花以来19年ぶりの日本出身横綱として迎えた春場所だ。13日目に左腕や胸を負傷して「土俵は無理」と思われたが、これを押して出場。千秋楽で本割と優勝決定戦を制して逆転優勝を成し遂げた。劇的な相撲に感動したファンも多かったはずだ◆だが、けがをろくに治す間もなく出場した頑張りが裏目に出たか。その後は苦境が続いた。引退会見の最後に、相撲への自らの信条を聞かれ「絶対に逃げない気持ち」と答えていたのが印象的だった◆相撲協会が八百長騒動に揺れていたころ「俺はガチンコだから」と話していたという。不器用で、手抜きのない真っ向勝負の土俵人生。それこそが稀勢の里であった。どれだけ負け続けても、これほど国民に愛された横綱はいまい。(丸)

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