河野太郎外相とロシアのラブロフ外相がモスクワで会談し、北方領土問題を含む平和条約締結交渉が始まった。昨年12月の安倍晋三首相とプーチン大統領との首脳会談で両外相を責任者に指名した「新たな枠組み」による初めての会談である。

 ただ、ラブロフ外相は北方領土を巡る主権問題などで強硬な主張を展開し、両国間の隔たりを鮮明にする出だしとなった。

 安倍首相は22日にロシアで大統領と首脳会談を行う。ラブロフ外相の発言には交渉上の戦術やロシア国内世論向けの側面もあるだろう。隔たりを乗り越えるには両首脳の政治的決断が不可欠な状況が、より明確になったとも言える。

 だが、首脳会談の前に注文を付けておきたい。安倍首相は今年を「戦後外交の総決算の年」と位置付け、2021年9月までの自らの任期中に平和条約交渉の決着を目指すという。しかし政権のレガシー(政治的遺産)づくりのために前のめりになる交渉は危うい。何が日本の利益であり、国際社会にも理解を得られるのかを冷静に見極めるよう求めたい。

 この間の日ロ交渉では、日本政府が説明を拒む場面も目立つ。交渉過程の全てを明らかにできないのは分かる。だが可能な限り国民に説明し、理解を得る責任が政府にあることも指摘したい。

 ラブロフ外相の主張は、従来のロシア側の基本方針を譲らない強硬な姿勢を示したものだ。北方領土は第2次大戦の結果としてロシア領になったことを日本側が認めるのが交渉の前提だと主張。会談後の記者会見では、ロシアが「南クリール諸島」と呼ぶ地域を、日本が国内法で「北方領土」と規定していることにも注文を付けた。

 日本側としては受け入れられない発言だ。「大戦末期に当時のソ連が日ソ中立条約に違反して不法占拠した」というのが日本政府の基本認識であり、河野外相が会談で反論したのは当然である。

 ラブロフ外相は、安倍首相が年頭の記者会見などで「北方領土のロシア住民に、日本に帰属が変わることを理解していただく必要がある」と述べたことも取り上げ「首脳合意に反し、受け入れがたい」と批判した。

 日ロ首脳は「平和条約締結後の歯舞、色丹2島の引き渡し」を明記した1956年の日ソ共同宣言を基礎に交渉を加速することで合意している。首相の発言は、2島だけでなく国後、択捉両島も含めて将来的に日本側に返還されることを前提にした発言と受け取れる。

 これに対するロシア側の批判は主権問題に対する厳しい姿勢を示したもので、交渉の出発点から認識が大きく違う現状を改めて浮き彫りにした。

 プーチン大統領は返還した島に日米安全保障条約が適用される安保上の懸念も繰り返し指摘している。これらの問題を解決し、隔たりを埋めるのは容易ではなかろう。

 ただ交渉を焦り、急ぐのは禁物だ。重要なのは、平和条約締結で日本が得られる利益は何なのかである。北方領土周辺海域の資源開発や日ロの経済協力の促進は重要だろう。中国に対する戦略上の意義も指摘される。一方で、ウクライナ南部クリミア半島編入や米国の選挙への介入疑惑を巡ってロシアとの対立が続く米欧がどう評価するのか。交渉を進める理由を対外的にも説得力をもって説明する根拠が必要だ。(共同通信・川上高志)

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