またか、と思った人も多いのではないか。

 厚生労働省で重大なミスが発覚した。賃金動向を調べる毎月勤労統計で、決められたルールとは違う手法で調査していたのだ。不適切な調査は2004年から始まり、平均給与が実際より低く算出されていた。

 雇用保険の失業給付や労災保険など幅広い分野で「過少支給」が発生し、総額が537億円、対象者が延べ1973万人にも達する。厚労省では裁量労働制を巡る不適切データ問題が発覚するなどずさんな対応が続いている。失墜した信頼を回復するため、原因究明を徹底し責任を明確にする必要がある。関係者には猛省を促したい。

 勤労統計は、従業員5人以上の事業所のうち、約3万事業所を対象に実施。賃金や労働時間、残業代などを厚労省が都道府県を通じて毎月調べる。中小の事業所は抽出調査だが、従業員500人以上の大規模事業所は全て調べるのがルールだ。

 しかし東京都内では、500人以上の約1400事業所のうち、3分の1程度しか調べていなかった。「手抜き」と言われかねない不適切な処理は、約15年も続いていたというから驚きだ。組織的な隠蔽(いんぺい)も疑われる。

 大規模な調査には相応の経費が必要な上、人手や時間もかかる。抽出調査がいけない、と言っているわけではない。問題は長期間にわたりルールを無視、国の統計の信頼を著しく傷つけたことだ。

 勤労統計は統計法に基づき、国の基幹統計調査として実施される。調査結果は、雇用保険の失業給付や育児休業給付、労災保険の傷病年金など、さまざまな給付金を算出する際のデータとして利用される。

 国内総生産(GDP)と同時に公表される雇用者報酬を推計する主要データの一つとして活用されるほか、物価の影響を加味した実質賃金の伸びもこの調査で分かる。消費や暮らしぶりに影響する数字として注目度が高く国会や国政選挙でも論戦のテーマとなる。エコノミストの関心も高い。

 厚労省は昨年1月分の調査から、大規模事業所のデータを本来の全数調査に近づける統計上の補正処理を実施。それより前は、賃金水準が高い都内の大規模事業所のデータが実際より少なくなっており、平均給与が低く出ていた。

 この結果、平均給与の伸び率で変動する失業給付や傷病年金などの金額も本来より低く算出された。この過少支給額が合計で537億円にも達する見通しで、厚労省などは過去にさかのぼって不足分を支払う。いいかげんな調査を漫然と続けてきた影響は甚大で、ツケは大きい。

 働き方改革関連法の審議では、裁量労働制を巡る厚労省の不適切なデータ処理が発覚。政府は、当初目指していた裁量労働制の適用業種拡大を断念した。昨年夏には中央省庁で長年、障害者雇用の水増しが行われていたことが判明した。障害者雇用の担当官庁である同省が、身内の不正を見逃し続けてきたことで厳しい批判を浴びたことは記憶に新しい。

 同省が担っている雇用や社会保障、子育て支援などは生活に密着する分野だけに、国民の不信感は根深い。今回の原因究明や経緯の調査は信頼回復の一歩にすぎない。改めて公務員としての襟を正し、当たり前のことをきちんとやってほしい。(共同通信・新井秀信)

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