昭和・平成の重大事件といえば「3億円事件」(1968年)や「グリコ・森永事件」(1984年)などリアルに記憶がよみがえるものがいくつもあるが、世間を震撼(しんかん)させたという点では一連の「オウム真理教事件」(1988年~)が突出している◆ハルマゲドン(最終戦争)予言とか猛毒サリンの製造など、「尊帥」と呼ばれた男の暴走で多くの人の命が奪われ、この“狂気の妄想家”のマインドコントロールに操られた若者たちが死刑執行という形で人生を終えた◆正月早々に作家門田隆将さんから新刊『オウム死刑囚-魂の遍歴(井上嘉浩 すべての罪はわが身にあり)』が届いた。門田さんは、いろんな事件において被害者の立場から数多く書いてきたが、本書は加害者(井上死刑囚)の側から、こん身の思いを込めて事実を描写している◆例えば洗脳のすごさ。高校生だった井上死刑囚が教団セミナーから帰った時、母親が息子の変わりように驚がくする。「たった5泊6日でこんなにも変わるものか」。このくだりを読みながら、佐賀からオウム教団に去ったある医学生の母親の言葉がぴたりと重なった◆「セミナーから帰ってきた息子が様変わりしていた。私には何が何だか…」。人間の後悔、悔悟、ざんげ。23年間に及ぶ取材から導き出したカルト事件の驚きの真実も見えてくる。(賢)

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