私的な投資の損失を日産自動車に付け替えたなどとして会社法の特別背任容疑で再逮捕された前会長カルロス・ゴーン容疑者が東京地裁で勾留理由開示手続きの法廷に立ち、意見陳述した。昨年11月19日の逮捕以来初めての公の場で「容疑はいわれのないものであることを明らかにしたい。日産に損害を与えていない」と無罪を主張した。

 ゴーン前会長の最初の逮捕容疑は、有価証券報告書に役員報酬を過少記載したとの金融商品取引法違反。東京地検特捜部は12月10日に別の時期の過少記載を巡り同じ容疑で再逮捕したが、10日間の勾留期限を前に地裁が勾留延長を認めず、21日に特別背任容疑で3回目の逮捕に踏み切った。

 今回の勾留理由開示は特別背任事件に関して行われたが、前会長は過少記載にも言及。「地検による訴追は全く誤っている」とした。意見陳述は英語で約10分間。「人生の20年を日産の復活にささげてきた」「日産での成果は最も大きな人生の喜び」と、かつて経営危機に陥った日産をV字回復に導いたプライドもにじませながら「私は無実だ」と何度も訴えた。

 海外では弁護士不在の取り調べや、否認すれば勾留が長引く「人質司法」に批判が高まり、世界的な経営者である前会長がわなにはめられたとの見方もある。真実はどこにあるのか。前会長と特捜部との全面対決の中で、冷静に見極めたい。

 これまでの調べによると、ゴーン前会長の資産管理会社は金融派生商品の一種である「スワップ取引」を新生銀行と契約したが、2008年のリーマン・ショックで多額の損失が生じた。このため前会長はその年10月に取引の契約者を自分の資産管理会社から日産に変更し、評価損約18億5千万円を日産に付け替えた疑いが持たれている。

 さらに09年2月に契約者を資産管理会社に戻す際、信用保証に協力したサウジアラビア人の知人の会社に日産の連結子会社から約16億円を入金させた疑いもあり、特捜部は自己もしくは第三者の利益のため会社に財産上の損害を与えた特別背任に当たるとしている。

 前会長は特捜部に「信用力を借りるため一時的に契約者を日産に変更しただけで、最初から戻すつもりだった」とし、損失は自分で負担したと説明しているという。今回の意見陳述では、約16億円の支出について「関係部署の承認に基づき、相当の対価を支払った」と述べ、弁護人も「紛争の解決などに対する正当な対価だ」と主張した。

 特捜部は、日産が損失を負担する状況に置かれた時点で特別背任は成立するとの立場だ。弁護人の言う「正当な対価」はサウジ政府や王室へのロビー活動、有力販売店とのトラブル解決などの対価を指すとみられるが、日産側にトラブルの記録は残っておらず、信用保証より前に知人側への多額の支出はなかったことなどから、前会長の個人的な取引を巡る協力に対する謝礼とみている。

 特捜部は前会長の「不正」に関与した日産幹部らとの司法取引によって、損失の付け替えについては十分な供述と資料を得ているとみられる。とはいえ、もともと特別背任は立証が難しいとされている。さらに知人側への送金については、状況証拠の積み重ねで立証を支えることになり、前会長側との激しい攻防の行方は予断を許さない。(共同通信・堤秀司)

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