欧米で自国優先主義やポピュリズム(大衆迎合)が横行し、中国やロシアは抑圧的体制の強化を進める。そんな流れを受け、多くの途上国でも民主化に逆行する動きが目立つ。世界の市民が結束して民主主義の後退を止める年にしたい。

 今年は東西冷戦終結から30年だ。1989年にベルリンの壁が崩れ、当時のブッシュ(父)米大統領とソ連のゴルバチョフ大統領が地中海マルタ島で冷戦の終わりを宣言した。民主主義と国際協調の時代が訪れたと世界の人々が期待を抱いた。

 だが近年、期待はしぼむばかりだ。各国の民主化度を調べている米人権団体「フリーダムハウス」によると、世界で「自由」が享受されている度合いは、2006年から毎年悪化が続いている。

 「米国第一」を掲げるトランプ米大統領が人権問題に背を向け、批判者を封じ込める中国の習近平国家主席やロシアのプーチン大統領が権力基盤を一層強める中、世界の民主主義の後退に歯止めがかからない。

 東南アジアのフィリピン、中東のトルコのように、本来は各地域を代表する民主的選挙制度を誇る国で、強権政治が臆面もなく進められている点に問題の深刻さがある。

 ブラジルでも、典型的なポピュリズム政治家と目される右翼ボルソナロ氏が大統領選を制し、今月初めに就任した。

 冷戦後の一時期は「民主化の優等生」と目されたタイで、14年のクーデター以来軍事政権が総選挙を繰り返し延期して居座っている。2月に民政復帰の総選挙が予定されるが、延期になるという見方がまたも浮上した。

 ジャーナリズムへの攻撃は民主主義の脅威だ。昨年は米東部メリーランド州の新聞社が襲われて編集者らが殺害され、トルコのサウジアラビア総領事館でサウジ人記者が暗殺された。ミャンマーではイスラム教徒少数民族ロヒンギャ迫害事件を取材中のロイター通信の記者2人が逮捕され、有罪判決を受けた。

 国家権力がインターネットやITを通じて自由を抑圧し、市民を監視する手法も巧妙化している。情報技術は市民が自由や人権を守る手段としても活用できるが、逆の使われ方が広がっている。

 欧州が、二つの大戦の惨禍を経て進めてきた欧州統合は、英国の欧州連合(EU)離脱や極右勢力の台頭で、大きく揺さぶられている。

 今年は、第1次世界大戦のベルサイユ講和条約の調印から100年にも当たっている。当時の日本の言論状況を研究するレーベン大学(ベルギー)の日本史研究者ヤン・シュミット准教授は「日本人は欧州の大戦を対岸の火事と見ていたわけではなく、戦後のさまざまな可能性を議論していた」と指摘し、次の大戦がなぜ防げなかったか今考えるべきだと強調する。

 国民経済や科学技術を全面的に動員した総力戦で傷ついた欧州各国は、もう戦争はしないと誓った。だが、第2次世界大戦は起きてしまった。日本はアジアの支配者の座を目指して道を誤った。そうした歴史の反省も踏まえ、これから日本が果たすべき役割を改めて考える一年にしたい。

 米国が国際協調主義に背を向ける中、日本の役割はこれまで以上に大きい。対米一辺倒から踏み出し、国際協調と民主化の流れを取り戻すために何ができるか。知恵を絞りたい。(共同通信・上村淳)

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