その折り鶴を見たのは、日本から遠く離れた欧州の地だった。鶴はオバマ前米大統領が広島を訪ねた際に折った4羽のうちの1羽。第1次大戦の激戦地ベルギーのイーペルにあった。ここは史上初めて化学兵器が使われた土地。訪ねた時は地元の博物館で初の「ヒロシマ・ナガサキ原爆展」が開かれていた◆折り鶴は子どもの手のひらに乗る大きさ。透明のケースに入れて展示されていた。鶴を折った紙は淡いブルーで花模様があった。化学兵器と原爆。共通するのは放射された物質で多大な惨禍を招いたことだ◆毒ガスで最初に使われたのが塩素ガス。ドイツ軍がガスを充塡(じゅうてん)したボンベ5千本を開栓した。するとガスの雲がゆっくりと塹壕(ざんごう)に潜む兵士に忍び寄った。連合軍の兵士は総崩れになり、この時だけで一説には6千人から7千人が犠牲になったとされる◆壊滅的な被害を受けたイーペルは、原爆投下を経験した広島、長崎と同様に、欧州の人たちにとって戦争の悲惨さを想起させる街として知られる。1921年には皇太子時代の昭和天皇もイーペルを訪れている◆「戦争は2度としないと誓ったのに、なぜすぐに第2次大戦が起きたのか。各国で右傾化が顕著になる今こそ考えることに意味がある」。地元の歴史家はそう指摘した。折り鶴に込められた願いに改めて思いをはせたい。(丸)

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