牛をブラッシングする田中優人さん=唐津市神田の内田山実習地の牛舎

 唐津市の市街地に近い佐賀県立唐津南高から徒歩15分の内田山実習地。約700キロある雄牛がくぐもった鳴き声を上げ、後ろ足をばたつかせた。「どうした」。唐津南高2年の田中優人さん(17)=唐津市浜玉町=がくしで背中をとかすと、とたんに牛は落ち着いた。「喜んでる」。優しい手つきだった。

 畜産を専攻し週2コマ、牛と接しながら餌の作り方や体調管理の方法などを学ぶ。畜産農家で佐賀牛を育てる祖父吉本博文さん(68)を継ぐため進学先に同校を選んだ。

 吉本さんは熊本県天草市で繁殖を手掛け、約30年前、佐賀牛にほれ込み移り住んだ。以来、肥育にも取り組み、計70頭を飼う。毎日の餌やりにはじまり、世話に休みはない。「本当に牛が好きでないと務まらん」。性格や体調を見極めて餌の配合や量を調整する繊細さも求められる。

 田中さんは小さい頃から車で約1時間の多久市にある祖父の牛舎に遊びに行き、自然と世話を手伝うようになった。今も部活がない日は餌運びを手伝う。

 継ぐことを決意したのは中学2年の時。「A5-12が出た」とやけに喜ぶ祖父の姿がきっかけだった。肉質の最高ランクで、霜降り量を示すBMS値は芸術品とも言われる最上値の「12」。「自分も同じ喜びを味わってみたい」とあこがれた。

 佐賀県内の畜産農家は2012年の825戸から17年は640戸と減り続けている。いい牛を育てるには「血統3割、餌3割、愛情4割」と言われる。吉本さんは「甘い世界じゃない。牛に対する気持ちが問われる」と孫を見守る。田中さんは「『この人が育てた肉はうまい』と言われる、祖父を超える農家になる」。覚悟はできている。

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2019年、「平成」から新時代へと移る節目の年を迎えた。新春の九州・沖縄県紙交換企画「託すバトン」は、新しい時代へ向け、各県の地域で守り育ててきた農業や伝統工芸などを引き継ぐ人、その「バトン」を受け取る人たちの思いを紹介する。全8回。

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