正月の定番料理、雑煮には各家庭に受け継がれた味があり、郷愁を誘う。佐賀に伝わる雑煮を調べようと、県食生活改善推進協議会(食改協)の協力を得て各市町の食改協にアンケートを取ったところ、地域ごとに傾向はさまざま。海に近いなど地理的条件や手に入れやすい食材、江戸期の藩や領主の違いなどが影響しているとみられる。そこで、アンケートの“多数派”から一般的な「佐賀の雑煮」を再現。カキ、クジラを使った、特色あるレシピや、今泉今右衛門家に伝わる伝統の味を紹介してもらった。

県食改協アンケート「多数派」はこれだ!!

アンケートの結果から“多数派”を集めた「佐賀の雑煮」。昆布でだしを取った澄んだつゆに、身近な食材が彩りを添える

 アンケート結果をもとに、県食改協の中尾良子会長(81)=武雄市=が一般的な「佐賀の雑煮」を試作してくれた。九州北部の正月野菜カツオ菜の緑が目にも鮮やか、カツオと昆布のだしが優しく体に染み渡る。ニンジン、かまぼこ、白菜で彩り豊かに仕上がった。
 餅の形は丸や四角など地区や家庭によってさまざまで、餅を焼くか煮るかも意見が分かれた。だしはカツオと昆布が最も多く、シイタケやあご(トビウオ)だしが続く。いりこや鶏肉の回答もあった。
 特徴的なのはクジラやカキ、干しエビを使う地域だった。
 嬉野市にはかつて海産物を売りに来ていた行商の名残が残る。9月ごろには行商から生きたエビを買い、家で干しエビを作り、秋冬の保存食にしていた。上峰町の上坊所地区では「ぜんざいを『雑煮』と呼んで、正月食べる」という声も。雑煮の具に小豆を入れる所や、吉野ヶ里町には「あん餅を入れる」という声もあった。
 雑煮は、生家に伝わる味を婚家で再現する場合も多く、地域を飛び越えても伝わっていく。「地域性だけでなく、各家庭の『個性』が色濃く出る特別な家庭料理」と中尾会長は雑煮ならではの面白みを語った。

 

カキ(太良町)-磯の香り、滋味豊か

太良町を中心に伝わるカキの雑煮。具材が煮上がったらカキを追加し、煮すぎず1~2分で仕上げるのがこつ=太良町のしおさい館

 「味が凝縮された小さめのカキがおすすめ。短い時間で煮て食感を残すのがこつ」。太良町食改協の末田多美子会長(68)はそう話し、生のカキを豪快に湯へ投入した。太良町ではカキは身近な食材。年末年始には、年越しそばと雑煮のだしにカキを使う。昔は家庭の主婦が海岸に出て、岩に張り付いたカキを取っては炊き込みご飯やみそ炒めを作っていたという。
 雑煮は熱湯にカキを入れ、さっとだしを取り、いったんざるに上げておく。そこにゴボウやニンジン、白菜などを入れ、味付けは白だししょうゆとみりんのみ。具材が煮上がったら再びカキを入れて完成、焼いた丸餅の上に注ぎ入れる。
 わんから潮の香りが立ち上る。末田会長は「好みで、ユズごしょうを入れてもおいしい」と話す。「食材に恵まれた太良では、夕飯にもう一品、と海へ行ってカキを打つ。ここは『豊足(ゆたたり)の里』だから」と末田会長は笑顔を見せた。

 

カワクジラ(伊万里・有田地区)弾む食感、豊かな脂

有田・伊万里地区に伝わる、クジラだしが味わい深い雑煮。手前がカワクジラ=有田町のキッチングランマ

 伊万里・有田地区には、かつては肉の代用品で、保存食として重宝されたクジラを使った雑煮が残る。使う部位は、皮と白い脂身のカワクジラ。味が濃く、同地区では肉じゃがならぬ「クジラじゃが」や煮しめなどにも使われる。
 有田町で地域の行事食を提供するキッチングランマの西山美穂子さん(71)がかつて地元の窯元から習った雑煮は、だしもクジラとゴボウで取っていた。同店では、現在はカツオと昆布でだしを取る。カワクジラは塩蔵の塩を水でよく流し、熱湯にくぐらせた後、水にさらして使う。具材は白菜、ゴボウ、ニンジン、かまぼこ、高菜など。
 有田では雑煮のわんも焼き物を使うことが多い。弾力あるカワクジラは、かむほどに豊かな脂がしみ出してくる。西山さんは「食には地域の文化が息づいている」と話し、大切な食文化を次世代に残していく。

 

今泉今右衛門家(有田町)-昆布だし伝統の味

ゴボウと細切り昆布、餅だけが入ったシンプルな伝統の雑煮=有田町の今泉今右衛門窯

 色鍋島の窯元・今泉今右衛門家(有田町)には、江戸期から伝わる雑煮がある。昆布だしのつゆに細く切った昆布とゴボウ、餅だけが入るシンプルな雑煮だ。
 十三代今泉今右衛門さんの妻・泰子さん(81)は福岡県出身。実家の雑煮は、エビやブリがにぎやかに踊る豪華なものだった。婚家の雑煮に出合い「あまりに簡素で驚いた」と笑う。
 今泉家は大みそかまで忙しく、手間暇かけたおせちを作る時間がない。元旦の膳はブリの刺し身やイクラ、カラスミなど珍味や生もの中心のごちそうが並ぶ。その最後に出すのが、滋味に富んだ伝統の雑煮だ。
 泰子さんは「時代は流れ、価値観や人の味覚は変化する。伝統が全てではない」という感慨を持つ。その上で泰子さんも十四代の妻も、雑煮は毎年伝統の味を出し続けている。

 

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