制作中の作品について語る中村暖さん=佐賀新聞社

 京都造形芸術大学の現役大学院生ながら、他に類のない無色透明なバッグやジュエリーのデザインで注目を集める中村暖(だん)さん(23)=神埼市出身。ファッションブランド「DAN NAKAMURA」の代表を務め、昨年は若いクリエイター向けのコンペティションでグランプリを獲得。その副賞で3カ月にわたりロンドンへ留学するなど、国境を越えた活躍ぶりを見せている。
 制作の根幹にあるのは、佐賀北高時代から一貫した「一人では作れないけど、自分にしか作れない作品」というスタイル。その愛されるキャラクターと行動力が引き寄せた大勢の仲間に支えられながら、唯一無二の作品を生み出す挑戦は続く。

 

仲間と無二の作品を

 曇りない無色透明なバッグ。ガラスのように透明度の高いバングル。水晶かと思わせるほどクリアな柄を付けたナイフやフォーク―。そのすべてに、高級品の代名詞でもある「ワニ革」があしらわれている。いずれも、中村さんが京都造形芸術大の卒業制作で生み出した「透明なワニ革」のコレクションだ。
 本物のワニ革の3Dデータで成形したアクリル素材だが、輝きやデザイン性は高級ブランド品にも見劣りしない。作品は東京・表参道やニューヨークのギャラリーに展示されたほか、昨秋、作家・辻仁成さんの主幹で始まった若いクリエイター対象のコンペティション「アート&デザイン新世代賞」では、初代グランプリを射止めた。

ワニのうろこがはっきりと浮き出ている「透明なワニ革」のシート(提供写真)

 

「透明なワニ革」のバッグ(提供写真)

新たなラグジュアリー

 他に類を見ない外見もさることながら、この「透明なワニ革」はコンセプトも面白い。高級品の象徴ともいえるワニ革と、大量生産・大量消費社会の産物であるプラスチックは、いわば対極の存在。「この掛け合わせで何か新しい物が生まれるのではと考えたのが始まり」
 中村さんは大学で「モノの価値を上げる」を主眼に学んだ。ラオスで除去された地雷や廃棄物からジュエリーを作るといった取り組みも重ねた。そして関心は次第に「素材は同じでも形を変えてモノの価値を上げること」に収束していく。行き着いた卒業制作が、いわば「スーパーのポリ袋の価値を、高級ブランド『エルメス』のバッグに使われるワニ革にまで高める挑戦」だった。
 取り組むうちに、熱で変形するプラスチック再生の可能性に引きつけられた。「バッグに飽きたら溶かしてジュエリーにもなるし、ワニ革に飽きたらヘビ革にもなる。錬金術のよう」。そんな性質に「高級とされているワニ革を超えた、これからの豊かさ」さえ見出

フレームが「透明なワニ革」のメガネ(提供写真)

せる予感を抱いた。「新しいモノを作るエネルギーや錬金術のように、可能性を秘めたモノこそが、新たなラグジュアリー(ぜいたく)なのでは」
 ただ、中村さんはこの作品をメッセージの発信や批評につなげるつもりはないという。「何かを肯定することは何かを否定することになりかねない。でも僕は一般的に高級と呼ばれている素材を否定もしないし、対抗もしない。目的はあくまで、今ある素材の価値をどうやって上げて、より輝かせるか」と強調する。

 

「アート&デザイン新世代賞」を主催した「デザインストーリーズ」は、作家の辻仁成さん(左)が主宰する。中村さんは留学に合わせてパリで辻さんと会った=パリ(提供写真)

一人じゃ作れない

 中村さんは今年9月から、「アート&デザイン新世代賞」の副賞でロンドンに3カ月間の留学中だ。エリザベス女王が集めた宝石なども直接目にしながら、デザインやジュエリーの探究を重ねている。
 実は、佐賀北高1年だった7年前にもロンドンを訪れていた。当時は、佐賀県高校生海外使節団のメンバーとして。同じ場所に立った自身の成長ぶりについて「7年前にはなかった視点で現地の建築や塗装などを見られるし、当時は出会えなかった人とも会える。あの頃は想像もしていなかった未来」と実感している。
 一方で制作のスタイルを振り返ると「当時からまったく変わっていない」。佐賀北高在学中、キャンバスを持って日本全国を巡り、出会った人に「日の丸」を塗り重ねてもらうアートに挑戦したことがあった。「透明なワニ革」も「一人じゃ作れないけど、自分にしか作れない作品」という自負にも似た思いがある。
 制作には、自身の会社のスタッフをはじめ、作品説明の翻訳や撮影のチーム、複数の企業の代表や下町の職人など、大勢から協力を得たという。だからこそ中村さんは「関わる人全てのステータスに」という旗印を掲げる。「作品に携わってくれたたくさんの人に感謝を伝える方法は、自分が世界で輝くこと。『暖君のこの作品に関わった』と自慢してもらえるように頑張る」。そう力を込める。

「透明のワニ革」を柄の部分にあしらったカトラリー(提供写真)

 

運命的な佐賀のガラス

 現在は、来年3月に東京・青山で展示するシャンデリアの制作に取り組んでいる。拠点も大学のキャンパスがある東京だが、いつか佐賀で取り組みたいプロジェクトも既に温めてある。着目したのは「肥前びーどろ」で知られる副島硝子工業(佐賀市)。なぜ故郷・佐賀のガラス製品会社なのか。
 「自分の作品もガラスと同じく透明だし、日本ではここでしかできない『ジャッパン吹き』という伝統製法は、2本のガラス棒だけで成形するから不純物が少ない」と、自身の作品にも通じる魅力を力説する。さらに「個人的な思い出を話せば、小学生の頃に家の近くで雨宿りさせてもらうのもガラス工房だった。そういう、何か運命的なものも感じている」と言葉に熱がこもる。
 実現時期について「きっかけはいつか来ると思う。何年後になるかは分からないけど」。まだあどけなさも残す23歳の瞳だけに映る未来への道は、彼の作品のようにすっきりと澄み切っている。


クリエイターを目指すみなさんへ

 

 「作品のコンセプトはめちゃくちゃ意識している」という中村さん。クリエイターの卵に向けたアドバイス代わりに、説得力あるコンセプトを生み出すヒントを聞いた。
 中村さんは「最近分かってきたこと」として、「『自分はこう思う』と『でも世の中はこう思っている』の二つが分かれば、その間を埋めたり見透かしたりする物が作品になる」と指摘する。その上で大切にしているのが「世の中の声を聞くこと」だという。
 「誰かと話すうちに自分のしたいことが磨かれていく感覚がすごくある」と経験論を披露。「だから人と会って話すことが多いし、『この人ならこう磨いてくれる』と話す相手を決めることもある」という。
 中村さんは東京MXのニュース番組「モーニングCROSS」にコメンテーターとして出演したり、ビジネス誌「Forbes」でコラムニストとして連載枠を持ったりと、経歴とは畑違いのメディアにも積極的に出る。その狙いもまた「まったく違う分野の人からリアクションが来ることはすごく貴重。声を聞くために、自分が出ることを大事にしている」と明かした。


=プロフィール= なかむら・だん

 1995年神埼市生まれ。佐賀北高芸術コース-京都造形芸術大空間演出デザイン学科卒、同大大学院超制作プログラム千住博研究室在籍。ファッションブランド「DAN NAKAMURA」代表取締役。
 佐賀県高校生海外使節団として高校1年の頃、30日かけて世界一周を経験。その後、東日本大震災の被災地など全国で2000人以上に参加してもらい制作した絵を軸に2012年、県立美術館で展覧会を開いた。翌13年、第4回日本ファンドレイジング大賞特別賞。
 15年、世界経済フォーラム(ダボス会議)が選出する次世代リーダー「グローバルシェイパーズコミュニティ」選出。16年、渋谷ヒカリエホールでファッションショー開催。17年、デザインストーリーズ「第1回アート&デザイン新世代賞」グランプリ。その他受賞・登壇歴多数。

DAN NAKAMURA https://dannakamura.jp/

 

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