LGBT支援の転職サイトの会社を立ち上げた星賢人さん=佐賀大学本庄キャンパス

トークセッションでは学内での困りごとやまわりの人にできることについて話し合った=佐賀大学本庄キャンパス

ミュージックビデオなどを手掛ける堤俊典さんの回「クリエイティブについて考えてみた」。学生からのアイデアを堤さんが膨らましていった=佐賀市神野東

 今回のいまドキッでは、佐賀大学や学生が開いた二つのトークイベントを紹介する。「LGBTに大学ができること~すべての人が住みよい佐賀を目指して~」では、LGBTの人に向けた就職サイトを運営する「JobRainbow」の代表・星賢人さん(25)が講演。当事者の佐賀大生らが登壇してトークを繰り広げた。また、佐賀大芸術地域デザイン学部花田伸一准教授のゼミ生は今年4月から10月まで、トークイベント「夜の藝術大学」を開き、文化や芸術について自由に語り合った。

LGBT トイレの場所、君・さん付け違和感

 星さんの進行のトークセッションでは、佐賀大LGBT支援サークル「CARASS」の代表・健崎まひろさん(20)、同大卒業生でトランスジェンダーの荒牧明楽さん(33)、荒牧さんが所属したゼミの担当教員・羽石寛志准教授(経済学部)が登壇した。

 「学内の困りごと」「私たちにできること」というテーマに対し、健崎さんは目立つ場所に多目的トイレがあって使いにくいことや授業で君(くん)・さん付けで名前を呼ばれることへの違和感を挙げた。「先生個人が気を付ける姿勢を持ってくれれば、安心して授業が受けられる環境になる」と話した。

 また、性自認の告白に対しては過剰に気負わず、「その人自身」と関わることの大切さが話題になった。荒牧さんから学生時代にカミングアウトを受けた羽石准教授は「卒業後に戸籍を変えたのも知らなかったほど意識してなかった。『荒牧明楽という人』としてつき合ってきたと思う」と振り返った。荒牧さんは「あくまで性同一性障害は私の全部じゃなくて部分」であり、その態度がうれしかったという。

 荒牧さんは「性で苦しんだ分、男らしさとか性別に自分自身がこだわっちゃう部分がある。そこは当事者が抜けないといけないところ」とも。「いくら周りが受け入れる態勢をつくっても、カミングアウトの勇気がなければ何もできない。逆に、カミングアウトできる環境ができたときには、まず受け止めてもらいたい」と思いを語った。

 星さんは「講演を聴くと『気を付けなきゃいけないことがいっぱいあるな』と思うだろうが、一番大切なのはそこではなく、まずちゃんと相手を見ること」とまとめた。参加した、経済学部1年の星下和輝さん(18)は「一人一人、大なり小なり普通と違う部分はある。LGBTに対し、構えたり、特別視したりしないでいたい」と話した。

 講演会は12日、佐賀大ダイバーシティ推進室が主催し、学生や県職員など約190人が聴講した。

星賢人さん(25)LGBT向け就職サイト運営

「ダイバーシティを自分ごとに」

 就職サイトを立ち上げたきっかけは大学時代。就職活動中だったトランスジェンダーの先輩が、男女分かれている履歴書の性別欄やスーツに戸惑っていた。面接官にカミングアウトをすると「あなたみたいな人は、この会社にいないので無理です」。開始5分で帰らされたと言っていた。活躍できる人材がスタートラインにすら立てていない現状に疑問を持ち、2016年1月に会社を立ち上げた。大学の取り組みの課題として、学内に相談窓口がなかったり、性別変更・通称名が利用できなかったりする。ガイドラインがないため、相談してもたらい回しになる。何に対応できて、できないのかも分からない。LGBTフレンドリーな大学は、LGBTが悩まず、卒業後も誇りに思える大学だと思う。トイレなどハード面も大事だが、教員や学生自身が違いを理解して多様性を尊重する気持ちがあってこそのこと。それだけで1人でも多くのLGBTが過ごしやすい環境をつくれる。

 理解するためにまず知って、「ダイバーシティ(多様性)を自分ごと」にしてほしい。すべての人に違う家庭環境や経験があり、皆さんの中にもダイバーシティがある。さまざまなマジョリティー、マイノリティー性があるのが人。それに対してリスペクトの精神を持ってほしい。

夜の藝術大学 文化人と学生、膝つき合わせ

 「佐賀市の一軒家から芸術に関わる人のコミュニティーを作ろう」-。この「CASASAGA」プロジェクトの一環として、佐賀大芸術地域デザイン学部・花田伸一准教授のゼミ生5人がアーティストや文化人を招いたトーク「夜の藝術大学」に取り組んだ。

 CASASAGAは造形作家佐々恭子さんから佐賀市神野東の一軒家を花田准教授が借り受けて取り組んでいる。「夜の藝術大学」はこの一軒家を会場に、今年4月から学生が企画・運営し、イベントの進行役やトーク詳報の記録などをすべて学生が担った。SNSを見た社会人や学生などが集まり、ゲストと顔を合わせて芸術や文化について語り合った。

 「大学内で『逃走中』とかやってみたい」「面浮立のダンスフェスとかは?」。8月には、プロデューサーの堤俊典さんと学生が膝をつき合わせて意見を交わした。「みんなで一つのクリエイティブを作る」を題にアイデアを出し、堤さんが助言を示す。学生たちのふわふわとしたアイデアに、少しずつ枠が形作られていった。

 このほか、これまで企画したのは、日田市にある映画館「リベルテ」の原茂樹支配人を招いた「映画との付き合い方 ―映画=誰かの人生―」、災害後の復興支援の一つとしてアートを使った活動に焦点を当てた「災害とアート」、美術家の鈴木淳さんと作品におかしさを生み出す方法を話した「ユーモアの法則」など。

 ゼミ生の地域デザイン研究科2年石原雅也さん(25)は「新しい考えが一つ聞けたり、いい話が聞けたなと思ってもらえればいい」と語り、「各回のやりたいテーマを考え、案を実現につなげていくことが大変だった」と話す。

 イベントは10月のトークでひと区切り。再開予定はまだないが、今後も新たなゼミ生らがトークイベントを続けていければと計画している。花田准教授は「専門家の話を一般の人にまでつなげる『現場力』を身につけてもらいたい。これからは、新しい視点で物事を見て、価値を問う意味をつくり出す人が必要になる」と学生たちの活動に期待する。