平成29年度の人工妊娠中絶総数は全国で16万4621件、20歳未満は1万4128件。その中で15歳未満は218件(厚生労働省)。自死者が約2万人、交通事故の死亡者が約4千人であることと比較しても圧倒的な多さで悲しい事実です。

 宗教者が性教育に関わる…と聞くと、「中絶ダメ絶対!」という方向性を期待されがちですが、私はそのような立場をとりません。もちろんあらかじめ推奨するものではなく可能な限り避けるべきですが、絶対悪として遠ざけると相談することができなくなりますし、既に中絶を経験し誰にも言えずにつらい思いをしている人がたくさんいらっしゃるのが実情で、数は少なくても中学や高校でも人知れず中絶の悲しみを抱えた子はいます。最初から中絶を見越して性交に至る人はまずいません。いろいろな状況がありましょうが葛藤の中で中絶を選択せざるを得ず、後ろめたさや後悔を抱えた人をさらに追い込むことに意味があるとは思えません。ぬぐえない悲しみの中からも精いっぱい生きていくしかない現実をサポートすることの方が重要だと感じます。

 「いのちの大切さ」を主張する文脈の中で、予期せぬ妊娠でも中絶は悪で出産が善と決めつけられる場合があります。一見したところ確かにそうですが、産めば良いという話ではないはずです。「産まなければ良かった」と本気で言われ続ける子どもたちが実際にたくさんいます。子どもからすると産んでくれと頼んでもなく何の責任もないのですが、真に受けて自分を無価値と思い込む子どもが後を絶ちません。全部ではないにせよこれでは出産を選択してもいのちが大切にされたとはいえません。妊娠が分かってから中絶の是非を問うよりも、産み育てられない環境で妊娠しないようにすることの方が重要なのです。

 中絶件数は全体的にずっと減少傾向で、平成15年あたりをピークに少し増えましたが今も年々減って(人口減などを加味しても減)います。ですが、これは性教育の効果ではなく、他者との関わりを避ける傾向によるものと考えられています。コミュニケーションの減少は望まない妊娠のリスクを高めます。性交が何をもたらすのか、どのような将来を考えているのか、男女共にタブーなく話し合える関係性をつくるための性教育普及を望みます。(浄土真宗本願寺派僧侶・日本思春期学会理事 古川潤哉)

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