昼間、突然、男子学生から電話がありました。アパートの2階から女性が動かず、泣いている。「すぐ来てください」と慌てた様子でした。私と看護師は男子学生のアパートをやっと発見し、2階に上り、今にも彼女は飛び降りそうだったので、しっかりと手を握りました。私は男子学生に「どうされましたか」と尋ねると、「今日、別れ話をしました」。彼女はすぐに外に飛び出て、実家に帰らず、玄関の前に座り込み、身動きしない状態となりました。

 まず、私は彼女に事情を聞いてみましたが、何も語らず、数十分が過ぎました。看護師ならと思い、バトンタッチしました。看護師はやさしく親しみのある言葉で少しでも話してくれることを期待しましたが、それも無理でした。仕方なく警察に連絡することとしました。パトカーで2名の警察官が来てくれ、警察官も丁寧なことばで「世の中にはいろいろな事があるのですよ」と人生論をやさしく語ってくれました。それでも、無言で泣いていました。警察官は職務上、住所、氏名、年齢、両親の電話番号などを尋ねました。それには、答えてくれました。すぐに、警察官は両親に電話し、しばらくして両親が訪れました。状況を察知し、娘は両親に抱きかかえられ、自家用車の後部座席に横になり、立ち去って行きました。外はもうすっかりうす暗くなっていました。彼女にとっては、初めての失恋だったのでしょうか?

 話は転じますが、医療の現場では、ひきこもり、誰にも話さない・語りたくない重症の方がたくさんいます。病院へ自ら足を運ぶことができるのは、軽症~中等症、入院歴があり外来治療を受けている方です。しかし、これから、受診したくても受診できない患者さんのために、訪問治療が可能な精神科専門機関がもっと必要になる時代になってきています。(佐賀大学大学院教授・保健管理センター、精神保健指定医 佐藤武)

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