生徒にたびたびマイクを向け、コミュニケーションを取りながら講演する古川潤哉さん=神埼市の神埼中(画像を一部加工しています)

 伊万里市の浄誓寺僧侶の古川潤哉さん(42)は「『生』と『性』と『死』を考える」をテーマに、県内の中学、高校で講演を続けている。中学3年生を中心に年間約30校を訪れ、生徒に「命を大事にするってどんなこと?」と問い掛けている。

「人間だから一律ではない」「一緒に生きていこう」

 「今日は注意ではなく、あなたの味方として話をします」。7月19日、古川さんは神埼中3年生の178人に語り掛け始めた。エイズや性感染症、LGBT(性的少数者)、生と死など話題は矢継ぎ早に移り変わる。不意にマイクを向けられ、生徒たちは戸惑いながらも話に引き込まれていった。

 中学の教科書にはコンドームは出てくるが、詳しい使い方までは示されない。古川さんは避妊具として、性感染症を予防するツールとしてコンドームを取り上げる。しかし、「使い方を学ばずに使うのは、運転免許を持たずに運転するようなもの」とも言い、医師が監修する動画で正しい使い方を学ぶよう呼び掛けた。

 また、自認する性について「学校では戸籍をもとに作った名簿で男女に分けられているが、性別は男女だけではない」と説明。「同性が好きでも異性が好きでも、悪いことでも何でもない」と強調した。

■講師選びの難しさ

 古川さんが講演活動に携わるようになったきっかけはホスピス、エイズ問題の啓発から。10年余り前から、命と性、性感染症予防について訴える活動を始めた。現在、学校から直接依頼を受けるほか、県DV総合対策センターが県内の中学校に提供する予防教育プログラムの派遣講師としても学校を訪れる。

 同プログラムは、友人や交際相手からの暴力や望まない性行為、性感染症や性暴力などの予防が目的。昨今、DVをめぐる事件は全国で頻発し、子どもたちに正しい知識を教えることが喫緊の課題になっている。その現実がある一方で、県DV総合対策センターの原健一所長は「保護者や教師は、子どもと距離が近すぎて性について話しづらい面もある」と、講師選びの難しさを指摘する。性感染症の専門医は人数が限られており、保健師は市町の雇用なので県内を横断しての講演は難しい。そこで、古川さんに白羽の矢が立ち、年間の講演回数は約30回に上るようになった。

■大人社会のゆがみ映す

 「子どもの問題は大人社会のゆがみを映す」。講演活動を通して、古川さんはそう感じている。正しさや完璧さが過度に求められる社会で、子どもたちは十分な知識も与えられないまま、それを押しつけられている。萎縮し、極端に間違いを恐れている。「おとなしい」と評されることが多い現代の子どもたちに、古川さんは大人社会の病巣を見て取る。

 「望まれて生まれるのが当たり前、結婚して子どもを作るのが当たり前。それぞれ異なる事情を抱えているのに、そんな“常識”を押しつけられ、生きづらい思いをしている子がたくさんいる」と古川さんは言う。「人間だから、一律ではないし必ずしも立派でもない。それでも『大丈夫だよ』『一緒に生きていこうね』と伝えたい」と語る。

 人は死んだら火葬される。化学分解され大気中に帰り、また新たな命を育むもとになる。そこから古川さんは「命はつながっている。性のはたらきは命を得るため。生きることそのもの」と伝える。ある男子生徒は「真正面から受け止めなくてはいけない話」と神妙な表情を見せ、「命はつながっているという話は難しかったけど、考え続けたい」と語った。

メモ

 文科省の学習指導要領などで、中学校では「性交」は取り扱わないことになっている。その一方で、「コンドーム」については性感染症の予防で有効とされるが、使用法などは指導外になっている。現場には“ねじれ”が生じている。

 今春、東京都の中学校で行われた性教育の授業を巡ってもこのねじれが問題に挙がった。「性行」は取り扱わない前提なのに、避妊や中絶について教師が言及したことに対し、都議会議員らは「不適切」「発達段階を無視した」と問題視した。性教育をどう進めていくべきか、教育現場の抱える悩みは深い。

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