窓も電気もない暗い教室、壊れかけたトイレ、時々出ない日もある天然の水道…。先日、私が視察団の一員として訪れたネパール山間部の公立小学校の現状はおよそこのような状況でした。

 出発前の準備段階では、ネパールの児童・生徒たちの歯の健診ができれば、そして食後の歯みがき指導やフッ化物塗布も伝えてあげられたらとあれこれ思いを巡らしていました。しかし現実は、貧しさゆえに大半の生徒が弁当を持っていませんでしたし、靴がなくてはだしで登下校する生徒もいました。そのような中、歯ブラシをもっていますかなどと質問することはとてもできませんでした。食後の歯みがき指導やフッ化物による啓発などどこか夢の世界のように感じられ、持参した歯ブラシを取り出すこともできませんでした。せめてボールとか楽器とか教育のために不足しているものがあればと思って先生方に伺いましたが、この学校には音楽や体育の授業は全くありませんというお答えでした。「ここの生徒たちに足りないものはただただ食事です」と初老の校長先生の、低く落ち着いた声が心にずしんと響きました。

 翻って日本の子どもたちのことを考えてみますと、飽食時代とも言われる環境にありますが、むし歯の予防が行き届いて健全な歯を有している割合が高いと思われます。しかし食事中に、肉を噛みきることができない、頬や舌を間違って噛むという子どもさんが少なからずいます。偏食傾向がある、“だらだら食べ”で時間がかかるなど口の機能に関して悩みを持つ保護者の方もたくさんいらっしゃるようです。このような問題に対して厚労省は10年来調査を行ってきましたが、ついに今年の4月より「口腔機能発達不全症」という新病名が設置されて医療保険の対象となりました。ネパールの人々には想像できない病名かもしれません。国によって抱える問題の違いを目の当たりにし、深く考えさせられる視察となりました。(すみ矯正歯科院長 隅康二)

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