先月は、「○○不全」のお話をしました。成長するに従って獲得してきた身体の働きが、加齢と共に低下し、不完全な状態になります。長生きすればするほど、この不完全な状態は進んでいきます。そして、80歳を過ぎる頃から、そこに「きつさ」が加わってくるようです。外来に笑顔で来られている患者さんでも、皆さん、「きつい、きつい」とおっしゃいます。ある患者さんから、「戦争を経験し、食べ物もない、金もない、そんな大変な時代に生きてきた。でも、今まで生きてきて、今が一番きつい」という言葉を聞き、その年齢にならないとわからない、深刻な「きつさ」があるのだろうなあ、と思いました。

 では、この「きつさ」は、医学的に何なのでしょうか。病気なのでしょうか。私は、「フレイル」という状態だと考えます。「フレイル」とは、日本老年医学会が提唱したFrailty(虚弱、老衰、脆弱)の日本語訳です。「加齢とともに心身の活力が低下し、慢性疾患の併存などの影響もあり、生活機能が障害され、心身の脆弱(ぜいじゃく)性が出現した状態である」とありますが、「適切な介入・支援により、生活機能の維持向上が可能な状態」とも言われています。健康状態と介護状態の中間にあるとも言えるでしょう。

 「フレイル」と判断する基準には、意図しない体重減少、疲れやすさ、歩行速度の低下、活動量の低下などがあり、それに、気力の低下や認知機能の低下、社会交流機会の減少、低栄養などが加わります。疲れやすさをはじめとした、さまざまな機能の低下を、「きつさ」として感じているのではないかと思います。

 幸か不幸か「フレイル」による「きつさ」は病気ではありません。病気ではないので、残念ながらよく効く薬も点滴もありません。安静にしていたら治るというものでもありません。当たり前のことですが、「よく食べ、よく身体を動かし、よく眠ること」が大事です。家に一人でじっとしていると、「なぜ、きついのか。どこかに病気がないか」と、くよくよ考えるだけです。家に閉じこもらず、誰かと会話をすることも、ぜひお勧めします。(佐賀大学医学部附属病院 卒後臨床研修センター専任副センター長 江村正)

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