玄海原発に続く国道。夕方になるとたくさんの車がはき出されていく=16日、東松浦郡玄海町

 作業服を着た男たちが、笑いながらグラスを傾けていた。玄海原発(佐賀県東松浦郡玄海町)に近い飲食店。「あのグループがそう。あっちも」。多くが原発関係者だった。再稼働後の町の雰囲気を知るため、午後8時ごろ知人と店を訪れた。「誰が聞いているかわからない。気軽に話せない」。知人はささやいた。

 昨年4月から玄海町と玄海原発の取材を担当している。山口祥義知事の同意や燃料装てんなど再稼働へのステップが進む度に県政担当記者と連携し、岸本英雄町長(当時)や町議、反対派の声を聞いてきた。

 ただ、原発について立場を明確にするのは町内でも少数。大多数の町民はどんな思いを抱いているのか。おおっぴらには語りにくい雰囲気があり、なかなか本音に近づけないでいる。原発以外で取材した人に意見を聞いても「記者はすぐそれだ」と鼻白む人もいる。

 九電が9月20日から約1カ月かけ、原発5キロ圏内の8500戸を戸別訪問し、自社の取り組みを説明する理解活動。同行取材を申し込むと「住民が自由に発言できる雰囲気にしたい」と断られた。

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 福島第一原発事故や原発全基停止、九電のやらせメール問題を経験しながら、原発の理解者であり続けた岸本町長が引退を表明。7月に選挙があった。選挙連載では、立地自治体のこれからを考えてもらおうと、町を潤した原発交付金が今後も安定して得られる保証がないことを伝えた。

 しかし候補者2人が容認派だったことや、既に3、4号機の再稼働後だったこともあり争点にはならなかった。「ここでは原発賛成派でないと当選しない」。岸本前町長が言い切ったことが、記憶に残っている。「お金のない町が原発でここまでやってこられた。町民はその必要性を大なり小なり感じている」

 ただ、それでいいのかと疑問は消えない。原子炉の運転期間は原則40年の期限がある。最も新しい玄海4号機でも、2037年には廃炉か運転延長か判断を迫られる。残り19年。最終的な決断は事業者の九電が行うとしても、立地自治体としてどう臨むか。議論は必要なはずだ。

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 福島の事故は、原発が環境や人の営みに取り返しがつかないほどの影響を与えるリスクを内包していることを示した。脱原発へ視線が向かう中、原発報道はその道筋と課題をどう提起していくかという方向にシフトしていくと考えている。

 待ったなしの状況になっている使用済み核燃料や廃炉の問題など熟議が必要な課題は多い。住民だけでなく、県民、あるいは社会が気軽に「原発どう思う」と言い合える仕掛けが必要だ。議論の糸口を紡ぎ出すためにできることは。「今」だけでなく「これからどうするべきか」という視点も持って、地域とともに考えていきたい。

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