「この世をば わが世とぞ思う 望月の欠けたることも なしと思へば」とは平安時代の公家、藤原道長が栄華を極めた心境を詠んだ歌です。この時53歳であった道長は既に不治の病を患っていましたので、絶頂期を惜しみつつ詠んだ歌かもしれません。

 この病は糖尿病であったとみられています。当時としては美食に囲まれた貴族くらいしかかかることがなかった病気ですが、飽食時代の現代では、発展途上国も含めて全世界で多くの人がかかる病気になりました。今回はこの糖尿病が歯科の代表的な疾患である歯周病と密接に関係しているという話をしたいと思います。

 糖尿病は血液中の糖、血糖が増えすぎてしまう病気です。増えすぎた血糖は血管を傷つけ、失明や腎臓病、脚の切断などさまざまな合併症をひき起こすことが知られています。糖尿病の大半は、脂肪過多の食事や運動不足など生活習慣を主因とする(2)型糖尿病といわれています。

 この型の糖尿病は歯周病と関係が深いことが近年の研究で詳しくわかってきました。歯周病は口の糖尿病とも呼ばれており、糖尿病が歯周病を重症化させ、歯周病は糖尿病を悪化させるという実に気脈を通じた悪玉のグループかのようです。裏を返せば、糖尿病と歯周病は予防でも、治療でも同時に進めることがお互いにとって望ましい方向にあることは間違いないようです。

 時代は再び平安時代ですが、当時は一日2食が基本で、歯みがきの衛生習慣はありませんでした。当時の裕福な公家たちの中には、運動不足で、2食のほかに酒や菓子をたびたび口にし、歯みがきもせずに、糖尿病とともに歯周病にも苦しんだ人々がいたのではないかと想像されます。

 6月4~10日は毎年恒例の「歯と口の健康週間」ですが、この機会に「歯と全身の健康週間」という観点で見つめ直してみてはいかがでしょうか。

(すみ矯正歯科・隅康二)

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