佐賀市の「三重津海軍所跡」が世界遺産登録3周年を迎えた。隣接する佐野常民記念館は、2015年度は登録効果で来館者数が急増したが、ブームが一段落して以降、減少傾向が続いている。佐賀藩が三重津海軍所で建造した日本初の実用蒸気船「凌風丸」の復元構想も一時浮上したが、佐賀県が「復元の実現は困難」との見解を示したことで頓挫した。新規見学者やリピーターを増やすには三重津海軍所跡の魅力向上に向けたアピールや取り組みが欠かせない。

 佐野常民記念館によると、15年度の来館者数は18万1280人、16年度は前年度比31・2%減の12万4730人、17年度は10万人を切り、9万7852人だった。18年度の4~7月は前年度をやや上回ったものの、来館者数は約3万4千人にとどまる。

 現在、三重津海軍所跡では史跡を現況保存するためドライドックが地中に埋まっており、見学者がじかに世界遺産を見ることができない。そのため見学者はVR体験スコープなどの可視化映像機器を使ったり、同館の映像施設で世界遺産を想像したりするしかない。

 世界遺産の「見える化」をより進めるために、三重津海軍所跡の象徴的存在として「凌風丸」を復元するよう佐賀経済同友会が、15年12月に佐賀県と佐賀市に提言した。これを受け県は、船舶に詳しい大学教授や造船、遊覧、観光業者に意見を聞くなど精査したが、「数多くの課題があり、実現は困難」との見解を示した。

 凌風丸の設計図や全体図が残っていないことが最大のネックになった。推測を交えて船を復元すれば、国連教育科学文化機関(ユネスコ)と結んだ「世界遺産条約履行のための指針」として掲げられている「真正性(資産に関する情報源の信用性や真実性)」に抵触する恐れがあるという。船の遊覧船利用についても、「船が小型(約18メートル)であるため、横波の影響を受けやすい」「船の定員数が少ないので、採算がとれない」といった問題点が指摘された。

 「真正性」や「安全性」を考慮すれば、県による凌風丸復元は断念せざるをえない。だが民間による凌風丸復元ならどうだろうか。活路を見いだせるかもしれない。

 佐賀経済同友会とともに凌風丸復元に向けて活動してきた民間の研究団体「幕末佐賀研究会」は既存の小型船を、凌風丸として復元できないか模索している。凌風丸の完全復元には1、2億円の費用がかかるとみられるが、既存の小型船改修なら6500万円前後ですむという。遊覧船の運航主体をどこが担うか、船の保管場所や管理運営費はどうするかなど課題は山積する。インターネットで資金を調達するクラウドファンディングを利用するのも一つの手だ。

 遊覧船活用をするにしても、「真正性」や「安全性」には最大限考慮しなくてはならない。研究会によると、海軍少将の秀島成忠が描いた凌風丸海図がかなり正確であるという。長崎では、オランダから幕府に贈られた観光丸を復元した例もある。完全復元は無理でも、民間の遊覧船レベルなら、どこまでの再現で許されるのか、県にはユネスコに「真正性」を問い直し、落としどころを探ってもらいたい。凌風丸の存在をこのまま埋もれさせるのはもったいない。(藤生雄一郎)

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