鳥栖市出身のサウンドデザイナー・日山豪さん(39)は、

 論理と感覚という2種類の思考を行き来することで、

 音の新たな可能性を探る表現にたどり着いた。

 学生時代にテクノミュージックで欧州のレーベルからデビュー。

 現在は音で商品や空間の価値を高める「サウンドブランディング」も手がける。

 その独自の世界に迫った。

  

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●音を「設計」する

 県立博物館で開催中の「すごいぞ! ボクの土木展」に、日山さんが関わった空間芸術作品「clubDOBOKU」が展示されている。照明と連動するクラブミュージックを、来場者が独自に作る体験型の展示だ。
 日山さんが手がけたのは音の素材提供。数カ月かけて集めた土木関係の効果音は約300種類に上る。ただし音源を提供すれば終わり、ではない。
 「音は、空間の目的に合わせた設計をしなければフィットしない」と日山さんは持論を語る。他の展示を邪魔しないか、来場者はどこから入ってくるか、来場者が遊び、満足して立ち去るまでの時間はどれくらいか―。会場に足を運び、作品以外の空間にも目を配りながら、音をチェックしていく。こうした視点は、アーティストやDJとしてのみ活動していたころは持たなかったという。

●テクノミュージック

 日山さんは中学時代からテクノミュージックに傾倒し、高校生の頃には「音楽で食べていく」と決めていた。そして大学3年にして、テクノミュージックのアーティストとしてデビューを果たす。それも本場、欧州でだ。
 熱意と行動力でつかんだデビューだった。拠点は鳥栖市に置いたまま「LPのラベル面に欧州の住所らしきものがあれば、片っ端からデモテープを送った。イギリス、スペイン、オランダ…、100社は超えた」。ひとたびデビューすれば、その後はいろいろなレーベルから声が掛かり、欧州ツアーも十数年にわたり毎年のように佐賀から通った。
 「発想が自由」。日山さんはテクノミュージックの魅力をそう語る。中学時代のある日、兄に聞かされた「止まらないレコード」の衝撃は今も忘れないという。30分、40分たっても止まらない。「なんだこれは」、ループ溝という仕掛けだった。「音楽には当たり前にあると思っていた『尺』という概念が崩壊している。そういう、枠にとらわれない考え方に引かれた」と笑う。

提供写真_______________________________
 

 

 

●音のブランド価値

 アーティストやDJとして活躍していた日山さんだったが、音楽を巡る日本の社会環境によって変化を余儀なくされる。「欧州は、DJに対する社会的な環境がすごく充実している。家のローンも組めるし、アーティストに助成金を出す国もある。でも日本はそうじゃない」。現実が立ちはだかる中、日山さんは本質的な問いと向き合っていく。
 自分は何のために音楽を作るのか。自分が取り組んできた音楽の力で、もっと社会にできることがあるのでは―。それを追究しようと2010年、「エコーズブレス」という会社を立ち上げた。
 日山さんの問題意識は、音楽に対価を払う新たな仕組みを見いだすこと。「CDに対価を払うシステムはほとんどの人から受け入れられている。でもそれ以外に、音や音楽の価値は存在しないのか」。それを打ち破る新たな仕組みが必要だった。他の業界に目を転じてデザインやブランディングについて理解を深めるうちに、「耳から伝わるブランド価値が絶対にある」と確信するようになったという。
 答えは少しずつでも、確実に明瞭になってきた。サウンドロゴ、電気製品の内蔵音、店舗の空間音楽と、仕事の幅は徐々に広がっていった。最近では熊本の美容室で、各空間の目的や客の動線も考え、音と音楽を使い分けて客の心理に働きかける提案をした。
 日山さんは「音や音楽はいろんなところに求められている。でも作る側も受け取る側も、それに気づいていない」と語る。日山さんが探し求めた「音の新たな価値」はそこにあった。

 
_______________________________提供写真

 

●クリエイティブ・ジャンプ

 日山さんが音や音楽を作る過程で最も「楽しい」のは、依頼者が求める音についてヒアリングする作業だという。
 「そのブランドで何をしたいのか」「何を伝えたいのか」「音が入った時に何を目的とするのか」「ブランドを立ち上げるまでの相手の思いは」「その空間に来た時の滞在時間はどれくらいか」。音そのものについて直接的に話すのではなく、要素や環境の条件などいろいろな視点から「建築的・デザイン的に設計していく感覚」だという。
 一定の「図面」が集まってくると、実際の音に持っていくタイミングが訪れる。クリエイターの間で「クリエイティブ・ジャンプ」と呼ばれる瞬間だ。
 日山さんはそれを「『よし、飛ぶぞ、作れそうだ』と感じるタイミング。建築的な、あるいはデザイン的な思考からアート的な思考に移る『ジャンプ』でもある」と語り、ヒアリングは「助走の距離を伸ばす作業」だと説明する。

 

●デザインとアートの間

 日山さんには「デザインとアート、論理的思考と感覚的思考は一見全然違うようだが、実は共存できる」との持論がある。目的次第でその割合を変えて音や音楽を制作しているという。
 例えばカーナビに搭載する警告音は、ドライバーにちゃんと警告を感じてもらうためにデザイン志向が強い。一方で、サウンドプロデュースを手がけた美容室の待合室には、滴が落ちる7パターンの周期に、石を木でたたく音を重ねた音源を提供した。「理由などなく、すごく感覚的なもの」だという。
 この論理と感覚、デザインとアートのバランスは建築にも共通するという。「アート的な建築でも、人が入れるのはデザインが働いているから」。大学時代に「単に興味があって」学んだ建築が、いつしか音楽と重なっていた。
 「論理と感覚、デザインとアートの間にある何かしらに一番興味がある」。デザインとアートの間にある、音の限りない可能性。日山さんはそれを誰よりも楽しんでいる。

 

■クリエイターを目指すみなさんへ

 DJやアーティストとして一度立ち止まった末、同じ音を武器としながらも新たな境地を見出した日山さん。「方向性の転換」について、若手クリエイターへのアドバイス代わりに持論を語ってもらった。
 日山さんは「一つのことをやり遂げる」という言葉を「日本的な美的感覚で、あまり好きではない」とし、方向性を転換する価値を認める。「僕は音の価値を高めたかった」と自身の軸を振り返った上で、「大事なのは、考えを変えた上で、どこに行こうとしているのか。それまでの経験や積み上げたことが総合しているのなら、考えは変えて良い」と思いを投げかけた。


★土木展9月2日まで

 日山さんと音響・映像ソフトウェア開発会社「アールテクニカ」のコラボ作品「club DOBOKU」も展示する「すごいぞ! ボクの土木展」は、佐賀市の県立博物館で9月2日まで。観覧時間は午前9時半~午後6時、入場無料。

「すごいぞ! ボクの土木展」に出品した照明と音のインスタレーション「club DOBOKU」と日山豪さん=佐賀市の県立博物館

 

=プロフィール= ひやま・ごう

 大学在学中にデビュー。毎年のように海外ツアーを展開し、これまでに欧州やアジアの10カ国で出演。2013年は「世界最高峰」といわれるベルリンのクラブ「Berghain(ベルグハイン)」にも出演を果たす。
 自身のレーベル「HUEHELIX(ヒューヘリックス)」を立ち上げ、国内外に向けリリースを重ねる傍ら、その音楽性を拡大させ「エコーズブレス」を設立。EPSONロボティクスのサウンドロゴ、docomo丸の内ショップ「+dMART」の空間音楽などに携わる。
 さらに、サウンドアート作品による個展「音を鳴らすということ」やデザインに特化した音の展示会「見えない展示」の主催、東京芸術大ゲスト講師など、多角的な視点から音を追究している。

ECHOES BREATH : http://www.echoes-breath.com

 

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