短歌ムック「ねむらない樹」の表紙

 透明な詩情が今も人々の胸を打つ「夭逝(ようせい)の歌人」笹井宏之さん(西松浦郡有田町、本名筒井宏之、享年26歳)にちなんだ短歌ムック本「ねむらない樹」が、宏之さんの誕生日にあたる8月1日に創刊される。若手歌人を応援し短歌を広めようと、福岡市の出版社と気鋭の歌人らが企画。新たに創設された宏之さんの名前を冠した短歌賞「笹井宏之賞」の発表媒体としても活用され、若手歌人の作品発表や研さんの場としての役割を担う。

 

 ムックのタイトル「ねむらない樹」は、宏之さんの短歌「ねむらないただ一本の樹となってあなたのワンピースに実を落とす」から。創刊号はA5判176ページで、大森静佳さんら新世代の歌人が選んだ現代短歌集や対談、歌人穂村弘さんのエッセー、歌集の書評など多彩。出版社「書肆侃侃房(しょしかんかんぼう)」(福岡市)が刊行する。

 書肆侃侃房は、過去に「八月のフルート奏者」など宏之さんの歌集を3冊出版。田島安江代表は「『これは現代詩だ』と衝撃を受けた」といい、2009年死去から来年没後10年を迎えるのを前に「(宏之さんは)若い歌人の代名詞。名前を冠した賞を創設し、新たな才能を発掘したい」と「笹井宏之賞」を設け、発表媒体としてのムック刊行を思いついた。

 宏之さんは1982年有田町生まれ。難病のため、高校1年生のころからほぼ寝たきりで過ごした。幼少期からピアノやフルートなど音楽とも親しんでいたが体調の悪化もあり、わき上がる感性の出口を音楽から短歌に移した。2004年ごろから始めた短歌で、佐賀新聞の読者文芸欄に投稿を重ねた。

 読者文芸は「名前が載ると祖父母が喜んでくれるから」と本名で文語体の作品を、会員制交流サイト(SNS)などインターネット上ではペンネームで口語体の作品を発表。読者文芸短歌部門年間賞を2度、ペンネームでも歌葉新人賞や未来賞を受け、両方の作風で評価を高めていった。

 宏之さんが26年の人生を駆け抜けた後も、多くの人がその作品に感銘を受けている。「セーラー服の歌人」として知られる鳥居さんら中央歌壇の歌人によるファンレターや追悼文だけでなく、短歌から着想を得たデザイナーのポストカード、短歌を歌詞にした曲の楽譜。それらが宏之さんからの手紙のように、今も両親の元に届き続ける。

 宏之さんのブログを引き継ぎ今も更新を続けている父の孝司さん(66)は「今も宏之のことを忘れずにいてもらえるのは、親としてとてもありがたい。多くの人に宏之の作品が届いてほしい」と話す。

 税別1300円で、紀伊國屋書店佐賀店などで扱う。賞の応募は1人1篇(未発表50首)、10月15日締め切り。1月の祥月命日に合わせて発行する2号で受賞作を発表する。最高賞受賞者は同社から歌集が出版される。問い合わせは書肆侃侃房、電話092(735)2802。

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