9月の自民党総裁選に向けた動きが本格化している。連続3選を目指す安倍晋三首相と挑戦者の石破茂元幹事長がそれぞれ憲法改正や地方創生を争点に掲げて立候補への意欲を表明する中、岸田文雄政調会長が出馬を見送ったことで一騎打ちの構図が強まったためだ。

 野田聖子総務相も出馬を目指しており、無投票再選となった前回の2015年と違って政策論争が行われる見通しとなったのは歓迎すべきことだ。しかし、安倍政権のこの5年半余、「官邸独裁」と言っても過言ではない状態となり、財務省の決裁文書改ざん事件に象徴されるように官僚の倫理は低下。統制すべき政治家側も、官房副長官による宴会写真のツイッター投稿に見られるように緩みが顕著だ。

 政治は国民からの信頼が大前提だ。総裁選では劣化が否定し難い政権のありようも議論の対象としなければならない。再生を誰に託すのかが大きな争点である。

 総裁選自体は「9月7日告示―20日投開票」の日程で行われる予定だ。安倍首相は西日本豪雨の被災地対応を優先させ、立候補表明を先送りしているが、岸田氏が不出馬と自身への支持を表明した24日、東京都議との会合で、憲法改正を実現する考えを表明した。

 一方、挑戦者となる石破氏も安倍首相の動きを考慮し、正式表明はしていないが、26日の共同通信社での講演で、「選挙は行われるべきだ。自分の損得や保身は捨てなければいけない」と述べ、安倍首相との論戦に臨む考えを強調した。

 安倍首相は野党時代の12年の総裁選で石破氏を破って復帰、年末の衆院選で当時の民主党を下し、首相に返り咲いた。

 政権を「お友達」で固めて改憲に突き進んで挫折した第1次政権の反省から、当初は経済再生を前面に据えて国民の信頼回復と支持を得る堅実な政権運営に徹した。

 主要野党の分裂と並立に助けられた「自民1強」から安倍首相を頂点とする「官邸独裁」へと進む転機となったのは、15年の前回総裁選だ。安全保障関連法が審議中であることを理由に有力候補だった石破、岸田両氏が不出馬を決め、野田氏だけが立候補を目指したが、切り崩し工作もあり推薦人を集めきれず、断念に追い込まれた。

 安倍首相に対抗しうる有力者であった石破、岸田両氏が選挙戦を回避したことが官邸独裁に承認を与えた格好となった。石破氏も「無投票だったのは良くなかった」と認め、26日の講演では、安倍政権の党運営や国会対応を念頭に「おごり高ぶり、同じ党の同志をさげすむ自民党であってはならない」と述べた。

 官邸独裁が招いた悪弊の典型は決裁文書の改ざん事件だ。財務省の報告書でも安倍首相の「関係していたら辞める」との答弁を境に改ざんが始まったことが明らかになっている。府省庁の幹部は内閣人事局で決めており、任命責任は官邸にある。

 国会運営でも、昨年は森友、加計問題を審議するため野党が求めた臨時国会召集に応じず、今年の通常国会は、カジノを含む統合型リゾート施設(IR)整備法など世論の反対が強い法律を押し通すために延長に踏み切るなど「おごり高ぶり」は極まっている。

 自民党が自らの手で5年半余を総括し、教訓を得る総裁選としなければならない。(共同通信・柿崎明二)

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